319.序列
「あまり気にすることはないんじゃないか」
メロディが暢気に言った。
「マリアンヌは無敵だ。
そのまま押せば良い」
雌虎で?
いやそれは冗談だけど、あまり気にしなくても良さそう。
そもそも私、神聖教では最高位なのよね。
その時点で特に気にすることはないのか。
それでも気になるので晩餐の時に同席した王女様たちに聞いてみた。
「礼儀でございますか」
「特に気にした事はございませんね。
序列にだけ気をつけていればよろしいかと」
駄目だった。
この人達は生まれながらの王族だ。
つまり王族としての礼儀しか習っていないし、それ以外の礼儀があるなんて知識としては知っていても理解はしてないだろうな。
だって基本的に自分より上の身分の人はほとんどいないんだから。
いるとしたら自分の親族や他国の王族なんだけど、そこで物を言うのは身分じゃなくて序列だ。
国王や王妃、王太子ならともかく、王族同士ならどこの国でも身分に差はない。
あるとしたら序列で、年齢や属する国の国力、あるいはその時点での国同士の関係で変わってくる。
しかも別にそれぞれ違う礼儀があるわけじゃなくて、立場が上の人には丁寧というかへりくだればいいだけ。
ああ、なるほど。
王女様方が私に対して最初から砕けた態度だったのはそのせいか。
つまり私は王女様たちから見たら自分と同格の身分なのよ。
王族ではないけど准王族である公爵家。
しかも令嬢じゃなくて爵位持ち。
近い将来国際的に絶大な力を持つ予定の姫君。
かといって王女である自分より明確に上というわけでもない。
だから同輩もしくは同僚として扱ったと。
怖っ。
私もざっくばらんに接していたけど、それって偶然正解だっただけだ。
下手すると地雷踏み抜いていたかも。
「気にするな。
マリアンヌは最強だ」
メロディの根拠のない励まし? がウザい。
人の事だと思って。
本当に最強なのはアンタでしょう。
そんなことをつらつら思いながら馬車に揺られること幾千歳。
辺りが暗くなった頃にやっと本日の目的地に着いたと言われた。
かなり大きな街で、この辺りの州都というか中心都市らしい。
教都までは馬車で半日くらいとか。
「お疲れ様でございました」
まったくだよ。
昼食もお弁当だったのよ。
トイレ休憩も少なかったし。
かなりの強行軍だったみたい。
街の中心部にある立派な宿舎に案内されて、やっぱり最上階のスイートルーム? に落ち着く。
もう慣れた(泣)。
「申し訳ございませんがご入浴は晩餐後で」
「かまわない」
ここでお風呂に入ってまったりしていたら夜中になってしまいそう。
ということで、私は適当に身体を拭かれてから晩餐会用のドレスに着替えさせられて夕食を摂った。
幸いにして偉い人達の謁見はなかった。
それを許したら私は寝る暇もなくなるらしい。
そんなのは叙階式の後で良いと。
なので、晩餐会の参加者は私と王女様たちだけだった。
その王女様も3分の1くらいは欠席していた。
「どうしたの?」
「疲れて寝込んでおられるそうです。
夕食もいらないと」
大変だなあ。
無理もないけど。
そもそも一国それも列強と呼ばれるほどの大国の王女様にそんなに体力があるはずがない。
ていうか、体育会系の育ち方をしていない限り、深窓の姫君以外の何物でもない。
私は幼少の頃からサバイバルで鍛えられているし、男爵家の子女になってからやそれ以降も自分で最低限鍛えていたから大丈夫だけど。
「この程度、遊んでいるようなものでございます」
「三日三晩嵐に揉まれた時を思えば」
晩餐に参加している王女の大半は脳筋というか、鍛えられて育った人たちだった。
王家も色々あるんだなあ。
とはいえ頑強だからといって疲れていないというわけではない。
晩餐会は早々に終わって皆さん自分のお部屋に引き上げてくれた。
私も自分の部屋に戻ったけんだど、メロディとロメルテシア様がついてきてしまった。
「眠いんだけど」
「すぐ済むから」
面倒くさいなあ。
まあしょうがない。
それでも姫君を迎えるのに寝間着でというわけにはいかないので、簡易型のドレスに着替えてソファーに誘う。
お二人もラフな格好で現れた。
「で、何?」
「明日の手順でございます」
ロメルテシア様の説明によれば、明日の朝はゆっくり起きてお風呂に入り、朝食を摂ってから出発になるそうだ。
教都到着は午後の予定。
でも宿舎に直行するんじゃなくて、そのままパレードになってしまうらしい。
「入都前に馬車を乗り換えて頂きます」
「またあの無蓋馬車に?」
「はい。
当然でございますがお着替えも」
それもそうか。
だから今日は強行軍だったと。
その分、明日はゆっくりして良いそうだ。
久しぶりにほっとする話だった。




