313.隠しキャラ
そういうことか!
「ヅラも有り」というのは逆に言えば桃髪じゃない巫女は公の場ではヅラをつけなければならないということだ。
つまり巫女には露骨に桃髪が求められると。
「でも桃髪って珍しくはあるけどそれなりに生まれていると聞いたんだけど」
「巫女降臨のお知らせはミストア全土に広まっております。
御用船でお迎えあそばされた方が桃髪であれば」
それもそうか。
状況証拠が揃いすぎている。
ミストアの御用船は滅多な事では使われないはずだ。
その船から降りてきた桃髪なんか巫女に決まっている。
増して私は正式な巫女衣装だしね。
諦念を抱いていると馬車が動き出した。
「……これからどうするの?」
「船旅の後、お疲れで申し訳ございませんがこのまま市内を回ります。
昼食までには宿舎に着く予定です」
さいですか。
一日中とかじゃなくて良かった。
「今日はここに泊まるの?」
「はい。
明日は教都に向けて出発いたします。
旅程は馬車で3日を予定しております」
何でも知ってるロメルテシア様。
この作戦計画のプランナーなんだろうな。
やっぱりチートだった(泣)。
それから私たちの馬車はゆっくりと市内を回った。
もちろん護衛の騎兵や馬車が回りを取り巻いている。
でもオープンカーなのよね。
矢でも射られたら普通に死にそう。
「あり得ません。
経路を厳選してございますし、狙撃可能な建物にはすべからく調査を」
ああ、そういうことか。
ここはミストア神聖国。
神聖教の本拠地だ。
使える兵力は無尽蔵だろう。
それは一人や二人の襲撃犯ならいるかもしれないけど、これだけのパレードを襲えるくらいの組織的な動きは無理だ。
私の前世の人の世界では、偉い人がパレード中に狙撃されるようなことが結構あったらしいんだけど。
でもあれは長距離からピンポイントで狙える高性能過ぎる飛び道具があるからで。
遠距離の攻撃手段が弓矢くらいしかないこっちでは無理な話なのよね。
大砲とかは砲弾が狙った所に飛ばないので問題外。
長銃もあるけど射程距離が短い上に威力が弱いし。
「それでも装甲ドレスなのね」
巫女衣装の下は暑苦しいアレだ。
「念のためでございます」
不慮の事故はいつでもあり得るからなあ。
まあ、雌虎の私が早々に後れを取るとは思えないけど。
パレードはロメルテシア様のおっしゃる通り昼前には終わった。
到着したのはこの港でも一番格式が高い宿舎だった。
しかも別館。
聞いたらそれこそ教皇とか国王とかが宿泊するための特別施設だそうだ。
「確かに豪華だけど」
「それもございますが、むしろ安全対策に力を入れております」
王女様たちは本館というか別の建物らしい。
メロディやロメルテシア様ですらそっちだとか。
やり過ぎじゃないの?
まあいい。
昼食の後、晩餐までゆっくりしてくれということで寝室に通される。
まだ足下が揺れているような感覚が抜けない私は喜んでベッドに飛び込んだ。
そう、船から降りるとなぜか地面が揺れているのよね。
長期間船に乗った後に上陸すると、大抵の人はそうなるそうだ。
そんな奴にいきなりパレードさせたのかよ!
まあいいけど。
カーテンを閉め切って数時間寝て起きたら日が傾いていた。
やっぱり疲れていたらしい。
「起きます」
「ではまずご入浴を」
待ち構えていたらしい専任メイドに拉致されてお風呂へ。
居間みたいな部屋で髪を乾かしながらお茶を飲んでいたら専任侍女が来て言った。
「晩餐は本館で開かれます。
どうなさいますか?」
いや、それは出るでしょう。
「お疲れならご遠慮しても」
「いやいや、ここまで来て逃げても仕方がないし」
どうせこの土地の有力者とか教会の偉い人とかが来るんだろうな。
ここで拒否って反感を買っても仕方が無い。
私も慣れたなあ。
というわけで正装した私は晩餐会に出た。
ちなみに「正装」とはミストア神聖教における巫女の正式衣装のことだ。
ドレスじゃなくて使徒であるロメルテシア様が纏っていたあれの豪華版というか。
ロメルテシア様の他に2人の使徒が付き添ってくれた。
なぜか出席者から感嘆の声が上がっていた。
巫女も使徒も普通は人前には出ないらしいのよね。
ていうか巫女が出たのは百年ぶりくらいらしいし。
ところでメロディはごく普通の豪華なドレスで王女様方に交じっていた。
アンタも巫女なのでは。
「メロディアナ様のご希望で」
そうかよ
自分だけ逃げやがって。
美味しいところだけをつまみ食いしていくメロディって何なのよ。
隠しキャラ?




