311.お声がけ
それからは用心して居間には近寄らずにいるとメロディとロメルテシア様が訪ねてきた。
どうも様子見らしい。
「いや、みんながマリアンヌの顔を見てないせいで落ち込んでいてな」
「申し訳ありませんが、少しでよろしいのでお声がけしていただけませんか」
お声がけって私は何か偉い人か?
しかも相手は他国の王女様たちだぞ。
でもそう言われてしまっては逆らえない。
私は専任メイドと専任侍女に頼んで簡易型ながらドレスアップしてもらい、一応扇などを手に皆様の所に向かった。
居間ではそこにおられた方々と一人一人お話して、それから客室に引きこもっているという王女様方のところにも回る。
なぜか大感激してくれた。
王女様方は別に孤独が好きとかボッチだから引きこもっているわけではなく、重軽の差はあってもまだ船酔いの最中だった。
専任メイドが気を利かせて冷たい飲み物を載せたワゴンを押してきてくれたので、私は「どうぞこれを」とか言って飲ませた。
後で聞いたらちょっと味はつけてあるにしてもただの水だったんだけど。
なぜか皆様、全快してしまったらしい。
「マリアンヌの奇跡と呼ばれているぞ」
「さすがでございます」
メロディとロメルテシア様が何か言ってるけど無視。
「船酔いしてなくて飲めなかった連中が不満そうなんだが。
是非我々にもと」
さいですか。
別にいいけどね。
仕方なく居間に行ったら船酔いしていない王女様方が全員揃っていた。
ロメルテシア様が先触れを出したらしい。
何やってるんだよ!
まあいい。
専任メイドに頼んで奇跡の水とやらを配る。
みんなに行き渡ったところで乾杯じゃなくて「全快おめでとう」をやったところ、客室は万雷の拍手に包まれた。
こういうのって群集心理だったっけ?
それからみなさんとなるべく公平になるようにお話する毎日が続いた。
といっても数日で終わったんだけど。
「明朝、ミストアのケザン港に到着の予定とのことでございます」
専任侍女によれば、本気で頑張れば今夜中には着けるらしいんだけど夜間航行は危険なのでゆっくり行くそうだ。
私は別に構わないというかどうでもいいんだけど。
「というわけで明日は上陸でございます。
ごゆっくり鋭気を養って頂きます」
夕食の後、早々にベッドに送り込まれた。
私は寝付きがいい方なのですぐに眠れた。
気配を感じて目を覚ます。
専任メイドが無言でベッドの側に立っていた。
今更ながらドキッとするよね。
「おはよう?」
「おはようございます」
舷窓から外を見たけどまだ真っ暗だ。
夜が明けてない。
「早くない?」
「時間はいくらあっても余ることはございません。
早速お支度を」
ベッドから引き吊り出されてお風呂に放り込まれた。
いつもより念入りに磨かれる。
船の上でこんな贅沢していいんだろうか。
いつもの貧乏根性が出て悩んでいるうちにお風呂から引き上げられ、ガウンを着せられて髪を乾かしながら軽食。
「朝食じゃないの?」
「本日は長丁場になる予定でございます。
栄養補給は小まめに行って頂きます」
そうなんだ。
私はここまで来ても、これから何させられるのか五里霧中なのよ。
またいきなり演説させられるかもしれないけど知ったことか。
そのうちに夜が明けたらしくて舷窓の外が明るくなり、いつの間にか海上に船が見えるようになった。
御用船はゆっくり進んでいるらしくて揺れは穏やかだ。
「甲板に出たいんだけど」
「御意」
駄目元で言って見たら許可してくれた。
専任メイドや専任侍女、護衛の近衛騎士などを引き連れて甲板に出る。
船の前方には陸地が広がっていた。
まだ遠いので建物なんかは見えないけど、海には大小様々な船が見える。
同じ方向に進んでいる船も多い。
「あれって」
「護衛船でございます」
何隻いるんだよ。
まあ、私はともかく各国の王女を乗せているんだしね。
襲って誘拐でも出来たら身代金がザックザクだ。
「出ませんよ」
専任侍女が教えてくれた。
「淑女でも姫君でも誘拐された時点で傷物と見なされますので。
どんな王家も身代金を払ってまで取り戻そうとはしません。
不慮の病や事故で亡くなったか、あるいは最初からいなかったことにされます」
怖っ!
そうか、本物の王家や高位貴族家ってそんなものか。
王女や令嬢なんか政略結婚の道具だもんね。
傷が付いたらもう使えない。
だから捨てると。




