310.底辺
三人目は何とあの金髪縦ロールの悪役令嬢じゃなくてハンセルド王国のミユレノン王女だった。
ほんわかとした雰囲気だけど外交を専門とする方だから舐めてはいけない。
海千山千の姫君なんだろうな。
「ミユレノン様も落ち着いていらっしゃいますね」
つい言ってしまった。
だって実際、落ち着いて居るどころかこの居間の主みたいな雰囲気なのよね。
凄い。
「はい。
国の渉外を司る者は、いついかなる時でも平常心を保てというのが我が師の教えでございます」
「平常心でございますか」
「何かの交渉に臨む場合、ありとあらゆる物事が武器になり得ます。
船酔いで思考が乱れた所を突かれたら著しく不利になると」
凄いな。
プロだ。
でもそんなこと言っちゃっていいの?
顔に出たらしくてミユレノン様は微笑した。
「マリアンヌ様は私の相手にはなり得ません。
むしろ私は乞うて薫陶を受けさせて頂いている立場でございます」
「いやそんなことは」
「そういえばマリアンヌ様も平気みたいですね。
海に出るのは初めてと聞きました。
凄いです」
エンテリィ王国の王女殿下、茶髪でショートの、ええとホロウサ様が言ってきた。
良かった覚えていた(汗)。
「たまたま、船酔いしないたちだったようでございます」
「やはりマリアンヌ様は完璧なのですね」
レイラ様が満足そうにおっしゃる。
「それでこそ我らを率いて下さる方。
シルデリアのメロディアナ様に伺いました。
生まれてすぐに底辺の立場に追い込まれたにもかかわらず、絶望することなく自力で生き残るどころか驚異的な成長を見せて、今や頂点にまで上り詰められようとしておられる。
私もあやかりたく思います」
いや底辺って。
メロディ、深窓の姫君に何を吹き込んでるんだよ。
「私が孤児院で育ったのは本当のことでございますが、それほど劣悪な環境だったというわけでは」
「お労しや。
テレジア王家とゼリナ王家の直系の血を引くご母堂を持ち、ミストア神聖国から巫女の叙階を受けられるほどの御方が孤児院でお育ちになるなどと」
「それを聞いて凄いというか、無条件で尊敬出来ます。
私など鍛えられて育ったと自負していましたけど、これまでの苦労など温室で大事に育てられていたようなものでした。
にも関わらず、マリアンヌ様は自力でここまでこられたのですよね?
憧れます」
エンテリィ王国のホロウサ王女殿下がなぜか頬を染めて見つめてくる。
ボーイッシュな姫君だから、何となく美少年が恋情を送ってくるような気分になってしまった。
いや私はショタには興味はないから。
ついでに言えばイケメンにもない。
私を動かすことが出来るのはイケオジだけだ!
「いえ、色々な方に助けて頂いて」
「メロディアナ様から伺いました。
長じて男爵家に引き取られた時点ではご自分の名前が書ける程度の教育しか受けておられなかったにもかかわらず、わずか2年でテレジア王立貴族学院に入学出来るほどの進歩を遂げられたと」
いや、あの学院は貴族籍があれば全入制だから。
「しかも、テレジア王都のタウンハウスでは使用人扱いされながらもたゆまぬ努力によって自らの存在価値を証明された。
まったく新しい型式の歌劇を考案されたばかりか流行を生み出され」
「多くの高位貴族家から支持を受け、テレジア王家より公爵位に叙爵されたと。
まるで物語の主人公のようでございます」
乙女ゲーム小説のヒロインです(泣)。
気がついたら戦国SLGのプレイヤーにされていたけど。
でも皆様、何でそんな詳しいの?
「メロディアナ様は言うに及ばず、学院の助教の方々が教えて下さいました」
あの人たちかよ!
これ幸いと吹きまくったらしい。
文句は言えない。
だって本当のことだものね(泣)。
そもそも私が今あるのはあの高位貴族令嬢方が最初に認めてくれたからだ。
子爵令嬢か、せいぜい伯爵家の方々の集まりだと思っていたけどとんでもない。
実家は高位貴族でテレジア王国の屋台骨を支えるほどの高官揃いだったし、ご本人たちも大人しくどっかに輿入れするような貴族令嬢じゃなかった。
どうも自分たちの欲望を達成するために私を担ぎ上げた疑惑が深いのよね。
あの方達が居たから最終的に神聖軍事同盟なんてものが出来たような気がするし。
しかも皆様はそれぞれ同盟内で枢要な立場を得ている。
むしろ黒幕だよ!
それからも王女様たちの褒め殺しが続いたんだけど、辟易した私は適当に切り上げて自分の部屋に逃げ帰った。
やってられんわ。




