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転生ヒロインの学院生活  作者: 笛伊豆
第九章 巫女

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308.出航

 専用客室に転がり込んで装甲ドレスを脱がせてもらい、ソファーでぐったりしているとメロディとロメルテシア様が来た。

「お疲れでございました」

「まったくよ。

 演説(スピーチ)ってやる必要あったの?」

「この際、出来ることは全部やろうということだな。

 すまんがよろしく」

 やらされるのは私なんですが?

 まあしょうがない。


王女様方(みなさま)は?」

「全員無事客室に落ち着いたよ。

 ……ああ、出港したみたいだね」

 気がつくと、ほんの僅かだけど床が揺れていた。

 窓の外の景色がじりじりと動いているような。


「ところで」

 メロディが気遣わしげに言った。

「マリアンヌ、今まで海に出たことは?」

「ない。

 王都から出たのもテレジア公爵領に行った時以外は初めて」

「そうか。

 ……ところで船酔いって知ってる?」


 それか!

 そういえばそうだった。

 この船は外洋に出るのよ。

 ミストア神聖国には陸路でも行けないわけじゃないけど、時間と費用がかかる上に安全を保障出来ないということで船旅になったんだけど。

 船酔いは盲点だった。


「荒れるの?」

「それなりに。

 なるべく沿岸近くを通るようお願いしているが、天候はどうにもならないからな」

 そうよね。

「ロメルテシア様も海路でテレジアにいらっしゃったのですよね?

 どうでした?」

 聞いてみた。


「かなり揺れました。

 (わたくし)は幸い、船酔いとやらは経験しませんでしたが」

「私もそういう症状は出なかったな。

 シルデリアからの船旅の間中、他国の言葉を覚えるので精一杯で他の事を考える余裕がなかったし」

 二人ともやっぱり人外(チート)だった(泣)。

 ていうかメロディ、船の中でよその国の言葉を覚えたのか。

 家庭教師を連れていたとか?


「いや。

 私は身分を隠して大型の貨客船でテレジアに来たんだ。

 各国の商人や旅人が一緒に乗っていたからこっちから話しかけてね」

 有力な国家の第一王女とも思えない大胆さだ。

 まあ、メロディが変装して素を出したら誰も王女だとは思わないんじゃないかな。


「というわけで頑張ってくれ」

「ご健闘をお祈りしております」

 二人の化物(チート)は生暖かい激励の言葉を残して去った。

 不安しかない。


「グレース」

「ここに」

「貴方は大丈夫なの?」

 世話係が寝込んだら酷い事になりそうだ。

「ご心配には及びません。

 どんな病も私の殿下を想う信念で跳ね返してご覧に入れます」

 いや船酔いは病気じゃないけど。

「ならよろしくね」

「御意」

 どうなることやら。


 数時間後、ロサント湾の海域から出た御用船は本格的に揺れ始めた。

 帆船の揺れは独特だ。

 リズムがあるようでいて微妙に変化するし、時々つんのめったりひっくり返りそうなくらい大きく揺れる。

 しかもそれが前後左右上下にいつまでたっても続くのよ。

 私は教えられた通り、なるべく揺れに逆らわずに身体を任せていた。

 おかげで今のところ気分が悪くなったり頭痛がしたりはしないけど、ちょっと揺れが大きすぎない?

 私の前世の人の世界ではこれほどではなかったような。


 帆船な上に船体が小さいからかなあ。

 鈍いジェットコースターに乗せられたみたいだ。

 そんなことは言えないので平気な顔をしているんだけど、さすがにこの状況で本を読んだりはできそうにもない。

 あっという間に吐きそう。


「殿下」

「何?」

昼餐(ランチ)のお時間でございますが、召し上がりますか?」

 専任メイド(グレース)が声をかけてきた。

 そういえば腹が減った。

「頂くわ」

「御意」


 すぐに専任メイド(グレース)がワゴンを押して入って来た。

 ワゴン、箱みたいになっているけど?

「落下防止用とのことでございます」

 そんなに傾くのか。


 昼食はやっぱりサンドイッチの類いだった。

 普通のフルコースなんかは無理らしい。

 私は別に構わないんだけど、貴族意識に凝り固まった人は不満だろうな。


「独特のお皿ね」

「転倒防止用ということでございます」

 アフタヌーンティー的な多段皿なんだけど、妙に底面積が広くて重厚だった。

 縁が反り返っていて多少傾いても中身がこぼれないようになっている。

 ちょっと持ってみたら重い。

 なるほど。

 スープのカップやグラスも円筒形で平べったいというか。


「本格的に揺れるとこのような配膳すら出来なくなるとのことでございます」

「それはそうでしょうね」

 別に文句はない。

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