301.司令官
美男の軍人さんは素敵な微笑みをみせて一礼した。
「私はこの基地の司令官を拝命しているペリオールと申します。
テレジア公爵殿下、ロメルテシア様。
ロサント第一海軍基地は御身を歓迎させて頂きます」
堂々としたものだった。
司令官ということは将軍?
いや海軍だから提督か。
多分出身は貴族なんだろうね。
平民でも将軍クラスに出世出来ないこともないけど、やっぱり家柄とコネがものを言う。
こんな大きな基地を任されるのは実力だけじゃ駄目だろう。
それから私たちは応接室に移動して色々と教えて貰った。
ペリオール様は私たちのことを知っていた。
それはそうだよ。
すぐ近くにテレジアの公爵を含む他国の王家の方達が集団で滞在しているんだよ?
港の警備体制を強化しているに決まっている。
それだけじゃなくて、ペリオール様はなんで私たちがここにいるのか、これからどうするのかもご存じだった。
かなり高位の軍人さんなんだろうな。
海軍だけじゃなくて政府にも関係しているのかも。
「そうでもございません。
海軍軍人は海だけを見ていればいいというわけにはいきませんからな。
物事には必ず原因と結果があります。
情報は重要ですぞ」
ぼかしたけどアレね。
諜報員があちこちにいるんだろう。
そうでなくてもこの海軍基地はロサント港の治安維持に関係してないはずがない。
下手すると当局者かもしれない。
ここは下手に誤魔化したりしない方がいい。
ということで私は率直に語った。
これからミストアに赴いて叙階式に出ること。
でもそれはお題目で、本当は神聖軍事同盟の結成が目的であること。
ペリオール提督は頷いた。
「重々承知しております。
御身らの安全はテレジア王国海軍の名にかけて保障させて頂きます」
「それはありがたいけれど……何かあるのですか?」
聞いたらちょっと苦笑された。
「各国政府から護衛艦隊を派遣したいが、という申し出が殺到しておりまして。
あまりに大規模ですと、それ自体が枷になりかねません。
同行する船を選定して頂くよう要請したところ揉めているようでして」
ありゃ。
まあ、名目は立つわよね。
自国の王女が同行しているのだ。
むしろ護衛なしでほっといたら鼎の軽重を問われる。
「ひょっとして出発が遅れているのも」
「ご明察でございます。
それからですね。
こちらからお知らせしようとしていたところなのですが」
ペリオール提督はため息をついた。
「各国の代表から是非テレジア公爵殿下に謁見したいと。
私の独断では無理だと突っぱねたところ、ならばと王都の大使館を通じて申請するとおっしゃられて」
何それ?
何で私なんかに挨拶、いや謁見したがるのよ?
「政治でございます」
ロメルテシア様が淡々とおっしゃった。
「この機会に少しでも知己を得たいということでございましょう」
「その通りでございます。
何分、申し出ている方々の身分が身分でございまして」
ペリオール提督に寄れば、既に各国の護衛艦隊が集まって来てしまっているそうだ。
とても全部が入港する余裕がないので、大部分は海上で待機しているとか。
艦隊なので司令官は提督だ。
つまり政治家か。
「いかが致しますか?」
そう言われてもね。
王政府だか外務省だかから命令されたら私は従うしかない。
テレジア公爵って国内では強面だけど、国際政治の世界では一貴族でしかないのよ。
まして王命なら。
「判りました。
今夜ですわよね?」
「はい。
御身がお泊まりになられる宿舎にて」
従業員の人たち、大変だろうなあ。
まあしょうがない。
大体、私は謁見されるだけで相手が何を言おうがそれに応じる義務ってないのよね。
責任がないから気が楽だ。
それからペリオール提督は自らロサント第一海軍基地を案内してくれた。
ここは本当に巨大な港湾基地で造船所なども併設されている。
湾の奥にあって岬には砲台が設置されているそうだ。
「外洋からの守りはまず鉄壁ですな。
ただ封鎖されると基地としての機能を失います。
なので外洋艦隊の他に近海防衛用の戦隊も用意してあります」
「なるほど」
「ここで話すことではございませんが、情報によれば仮想敵国の艦は我が国のものより船足が速く、長射程で照準が確かな砲を搭載していると聞いております。
その対策を急いでいるのですが」
やっぱり敵の方が技術的に進んでいるらしい。
これって理論や設計じゃなくて冶金や精錬技術の問題だから、一挙に追いつくって難しい。
「大丈夫なのでしょうか」
「何、戦争は総合力の勝負でございます。
劣っているなら劣っているなりに戦い方はございます」
不敵な笑顔を見せるペリオール提督。
何かこの人、戦略SLGでネームドで出てきそうだな。




