292.捨て身
ロメルテシア様の講談が始まってしまった。
何かこの人、私を異様に美化してるんだけど。
私、そんな立派な人物や性格じゃないから。
孤児院時代は卑怯どころか外道に近いようなことやってきているし。
二つ名が雌虎だもんね。
まあ、それでメンタル鍛えられて大抵の事は笑って済ませられるようにはなったけど。
「とにかく飾らないでいいのよね」
その方が私も楽だからいいけど。
「はい。
皆様が求めておられるのはただ一つ。
マリアンヌ様が神聖軍事同盟の盟主たるに相応しい方かどうかでございます。
そしてそれはマリアンヌ様の性格であると」
「私の性格?」
あんまり自信がない。
陰キャだしケチだし守銭奴だし敵対してくる者にはすぐ牙を剥くし。
「何をおっしゃいます。
マリアンヌ様の特質、光り輝く誠実さがあるではありませんか」
ロメルテシア様の妄想が加速した。
「誠実って。
私、結構ゴソゴソ動くし裏で立ち回ったりするよ?」
「そんなことは些細な問題でございます。
マリアンヌ様は一度信じた者は裏切らない。
決めた事は必ず守る。
そして壁があれば勇猛果敢に突破される。
まさしく王者の資質でございます」
何か単純で猪突猛進だと決めつけられているような気がしないでもないけど。
まあ、確かに当たってはいるのよね。
私は誰も裏切ったことはないし、一度決めたら死んでも守る。
そして正面突破は私のオハコだ。
「そんなの誰でもそうじゃない?」
呆れて聞いたら今まで黙っていたメロディが口を挟んだ。
「そうでもないんだ。
特に私達王族はね。
立場があるし義理と義務でがんじがらめで、時には意に沿わないこともやらなきゃならない。
心にもないお世辞を言ったりいずれ破る事が前提の約束をしたり」
「それが政治というものでございますが……そんな私共から観ればマリアンヌ様の生き様は眩しいばかりでございます」
それって私には立場も柵もないということでは。
そこで判った。
柵か。
確かに私にはこの身を縛るものがほとんどない。
普通の貴族と違って家系や親族、配下の者共は枷にはならない。
母上や祖母上って肉親であるけど、今はもう別の国の王族というだけだものね。
そもそも私が心配してやる必要なんかないでしょう。
テレジア公爵という身分はあるけど公爵領には大した思い入れはないし、そもそもあの領地は私なんかいなくてもやっていける。
ていうかいない方が効率がいいかも。
そういう意味では私って唯我独尊の身なのよね。
そして最大の要因。
王族や貴族にはひっくり返っても不可能なことが出来る。
私の中心は元孤児で、それ以外の事はいつでも切り捨てられる。
今いきなり孤児に戻されたって何とかやっていく自信がある。
そして今の立場や身分には執着がない。
「捨て身」だ。
これじゃないかな。
それを言ったらメロディとロメルテシア様は沈黙した。
「……マリアンヌ様のお覚悟、賜りました。
以後はより一層の忠誠を捧げさせて頂きます」
「私と御身の違いがよく判ったよ。
私なんぞがゴソゴソ言う必要はなかったな」
お二人とも大人しくなってしまった。
何で?
まあいいけど。
とりあえず、私は私でいればいいという許可が出たので謁見は気楽になった。
すると不思議なことに公使や特使や大使の方々は皆さん感激するのよね。
私としてはむしろ元孤児の地が出てるんじゃないかとひやひやものだったけど。
「まこと御身は同盟を率いるに相応しい方でございます。
帰国し次第、その旨報告させて頂きます」
「御身が率いてくだされば。
希望が出てきました」
「同盟に派遣する人選を急がねば。
御身の邪魔になるような者は排除致しますのでご安心を」
いいんだけどね。
何で?




