290.準備
私が勉強漬けになっている間にも準備が着々と進められていた。
それはテレジア公爵家だけではなくて王家もだ。
メロディから聞いた所によると、神聖軍事同盟準備委員会は私を中心としてまとまってミステアに向かうらしい。
ミステアに着いたらすぐに私のミステア神聖教巫女の叙階式というかお披露目があって、そのお祝いが終わると神聖軍事同盟の事務局立ち上げが発表される。
「仮の理事会は今ここにいる王女たちだ。
むしろ大使かな。
母国の意思を表明する立場になる」
「それだけ?
本当の理事会は別にあると?」
「そうだ。
各国の最高主権者というか、その国のしかるべき者がなる。
大抵は国王だな。
その方々が投票して盟主を決める」
なるほど。
神聖ローマ帝国の選帝侯の役割を各国の国王に割り振ると。
それはそうだよね。
国って国王が最高権威なんだから。
あれ?
「理事会の役目って盟主を選ぶだけ?」
「そうなるな。
神聖軍事同盟の目的はこの大陸の防衛だ。
もちろん総力戦だからすべて巻き込むことにはなるが、主目的は軍事的なものだからな。
参謀本部が作戦計画を作成して検討し、各国が承認することになる」
ああ、そうか。
各国の国王陛下たちは大陸全体の防衛計画には関わらない。
ていうか関われない。
そんな知識はないだろうし、そもそも国の統治と大陸の防衛は全然違うものだから。
なので盟主を選んで丸投げすると。
「陛下方は関係ないの?」
「そんなことはない。
神聖軍事同盟が決定した作戦計画には従う義務がある」
それはそうか。
神聖軍事同盟自体には配下の軍勢も組織もないのよね。
なので各国の軍隊や行政組織が担当する必要がある。
嫌だとは言えない。
手を抜いたら戦争に負けてしまうかもしれないし。
抜け駆けや内通を防ぐために相互監視も必要で、そうならないために理事会で承認する必要があると。
「盟主ってもの凄く大変なお役目なんじゃない?」
やっと気づいた私が怯えた声で聞いたらメロディが真面目に答えた。
「だからマリアンヌなんだよ。
他にはいない。
各国の国王が渋々でも信頼して従ってくれそうな存在は。
多くの王家に支持されミステア神聖教を率いるヒロインだけだ」
それってヒロイン?
主人公じゃないの?
「だったらひょっとして軍隊を指揮するとか」
「それはないな。
普通の戦争でも国王は自ら戦場に出たりはしないだろ。
後方支援が仕事だ」
なるほど。
戦うのは軍隊であって、その軍が上手くやれるように後方を回すのがお仕事か。
「でも神聖軍事同盟には後方とかってないのでは」
「だから主な仕事は各国が計画に従って支援を続けるのを監督することだね。
大変だぞ?
各国の王の尻を叩いたり背中を押したり方向を修正したりしなきゃならない」
メロディが何でもないように言うけど無理でしょう!
よその国の国王陛下にどうやって言う事をきかせるっていうのよ!
「だからマリアンヌなんだよ。
君以外だったら絶対に不可能だ。
誰も言うことを聞いてくれないだろう。
主権侵害とか内政干渉になってしまうし」
「そこまで?」
メロディはため息をついた。
「総力戦だからな。
単純に軍隊を揃えるだけじゃない。
まずは各国を戦時体制に移行させなければならない。
具体的には武器や兵器を開発したり優先的に生産したり兵士を徴集したり訓練したり。
インフラの整備も必要だ。
産業構造も換えなきゃならないし貴族や国民の意識改革も重要だ」
「……大変じゃない?」
「もちろんだ。
そのための大計画を策定中だ。
これはずっと続けていく必要がある」
私が考えていたより大事だった。
そうか、戦争するんだよね。
つまり戦時で、平時とは何もかもが違ってくる。
ていうか、その必要があるの?




