28.本科
私は緊張して面接官と向かい合っていた。
ここはテレジア王立貴族学院本科、つまり本殿の応接室。
学院になぜ応接室があるのかというと、ここが貴族学院だから。
使う人は基本的に貴族なので設備は最低でもお屋敷並に豪華だ。
私の前世の人の記憶だと、学校の事務室とか指導室とかそういうお部屋に当たるんじゃないかな。
でも応接室だから調度は豪華で私が座っているのもソファーだ。
重そうなテーブルの向こうには何やら書類を見ている厳めしい中年のおじさま。
学院の事務長らしい。
「……よく努力したようだな。成長が著しいと報告にある」
「ありがとうございます」
「もっともすぐに宮廷に出られるほどではなさそうだが……デビュタントはまだだな?」
「はい。いけなかったでしょうか」
「いや、そんなことはない。色々事情があることは承知している。
本学院の生徒は在学中や卒業後にデビュタントという事も少なくない」
良かった。
実は私、デビュタントがまだなのだ。
貴族女性が15歳でまだデビューしていないというのは遅いというよりは遅すぎると言っていい。
だって大半の貴族女性はこの歳になれば婚約しているし、早い人は輿入れ済みだ。
当然、デビュタントは済ませてある程度の社交をこなせているはずで。
でも事務長のおじさまのお話ではそうでもなさそう。
「学院は貴族子弟を育てるために存在する機関だ。
むしろそういった機会に恵まれなかった貴族子弟にこそ必要だと考えている。
実際、高位貴族家の子弟はあまり入学してこないのだ。
実家で成人するまで教育出来るからな」
さいですか。
それはそうかもしれない。
私はまだテレジア王立貴族学院の授業内容を知らないから何とも言えないけど、十分なお金があれば自宅で家庭教師に習った方が早いよね。
学校って教える側からみたら効率的だけど、教わる側の効率がいいとは言えないから。
だって家庭教師に一対一で教えて貰った方がよく判るに決まっている。
「よろしい。本学は貴嬢の本科編入を歓迎する」
「ありがとうございます」
やっとか。
私の前世の人の記憶によると、小説では私はお話が始まると同時に入学していたけど。
無試験だったような。
でも考えてみたら「始まりの場所」で頑張る前の私って礼儀とか教養とか何もかも足りて無くない?
そんな状態でいきなり本物のお貴族様たちと接したわけか。
無謀にも程がある。
私がほっとしていると事務長のおじさまが何かの書類に記入しながら言った。
「指導係に行って本科で必要な事について聞くといい。
今までとは色々違うから気をつけるように」
書類を渡してくれる。
入学許可らしい。
「ありがとうございます」
私は慎重に立ち上がるとソファーの後ろに回って軽く礼をした。
ほんのちょっと膝を曲げて頭を下げただけだ。
これもご指導の人に教えて貰った。
おじさまのご身分が判らないから、あくまで学院の事務の人、という相手に対する敬意ということで。
おじさまは満足そうに頷いてくれた。
正解だったみたい。
良かった。
頭を下げたまま、あとすざって退室する。
貴族って本当に面倒くさい。
だって背を向けたら無礼になるとか、色々決まっているのよ!
エリザベスが言っていた「型」ってこのことだ。
そして型に従っている限り、どんなに無様でも無礼ということにはならない。
失笑されたりはするだろうけど。
前世の人の記憶にある小説の私って、それ全部すっ飛ばしたのよね。
よく無礼打ちされなかったものだ。




