288.王命
凄いなあ。
メロディ、本当に前世女子高生だったんだろうか。
チート過ぎない?
ああ、そういうことか。
メロディは有能過ぎてミステアの巫女なんか務まらないんだ。
聞いた限りでは巫女ってほとんど何もしないで坐っているだけみたいだし。
それが判っているからロメルテシア様も無理にメロディを巫女だと宣言しなかったんだろうな。
いや、認定はしているらしいけど、対外的には秘密にしているというか。
せっかく桃髪の私がいるんだから、巫女枠は十分ということね。
でもメロディも巫女だからミステア神聖教内部では最高権威だ。
影の支配者というところかな。
なおも議論を続けるメロディとロメルテシア様を置いて私は引き上げた。
私が居ても何も出来ないし。
精神的に疲れたし(泣)。
そして私の毎日はまた平常運転に戻ったんだけど、ある日家令に言われた。
「殿下のお仕事を引き継がせて頂きます」
何?
どういうこと?
「私の仕事って公爵の?」
「はい。
書類の裁定は領主の仕事でございますが、代理を立てることも出来ます。
名代ですな。
権限を委譲すれば可能でございます」
その手があったか!
確かに書類仕事自体は誰でも出来る。
でも公爵しか決裁出来ないのは権限者だからだ。
なので、その権限を誰かに委託すれば私がやる必要はない。
「誰がやるの?」
「僭越ながらこのヒースが」
さいですか。
まあ妥当なところかな。
私も知らない人よりはヒースの方がいいし。
こういうのって下手な人に任せたらメチャクチャやられたり乗っ取られたりしそうだものね。
その点、ヒースなら元々王家の紐付きだから間違いとかは起こさないと思う。
ていうか、むしろ乗っ取って貰った方が楽なんだけど(泣)。
「でも大丈夫なの?
ヒースが大変なんじゃ」
「家令代理が育って参りました。
そろそろ家令の仕事をいくつか任せたいと」
アーサーさん、可哀想に(泣)。
機能停止する様子が目に浮かぶ。
まあしょうがないよね?
貴族ってそういうものだし。
あれ?
「ヒース」
「はい」
「名代やって貰うのは嬉しいんだけど、何で?」
すると家令は笑みを浮かべた。
「殿下にはテレジア公爵領などというちっぽけな領地を統治するより遙かに重要なお仕事がございます。
陛下より王命が下るはずでございます」
え?
何で王命が……あーっ!
メロディ!
やってくれたわね?
「それ、もう決まったの?」
「決定は随分前に行われたとのことでございます。
いよいよ時期が熟した、ということで」
駄目だ。
詰んでいる。
目の前が暗くなったけどどうしようもない。
数日後、本当に王命が下った。
王宮からわざわざ審議官がやってきて証書を渡してきた。
「確かにお渡ししました」
「ご苦労」
私の前世の人が読んでいた小説では王命って王様が臣下に直接言うんだけど、現実には違うみたい。
王命は国王陛下が正式に臣下に下す「命令」なのよ。
つまり公式な手順が必要になる。
証拠とかも必要だから文書で来るわけ。
審議官がそのまま待っているので私は箱を開けて入っていた巻物を広げて読み上げた。
『テレジア公爵マリアンヌ・テレジア。
神聖軍事同盟専従を命ずる。
万難を排して任務を達成せよ』
王家の印が押してあった。
王命ってこういうのか。
誰かに言われるんじゃなくて命令された人が自分で確認するわけね。
巻物を巻いて審議官に告げる。
「あい判ったとお伝えして」
「御意」
もちろんこれも様式美というか手順ね。
承知の返事はやっぱり文書で行うことになっているらしい。
そんなの祐筆だか誰だかの仕事だから私は知らない。
審議官が帰ると私は接客用のドレスを脱いでへたり込んだ。
たかが審議官とはいえ王家の使者に謁見したのよ。
疲れる。
「ご苦労さん」
メロディが軽く言った。
「人ごとだと思って」
「人ごとだよ。
まあ、私も母国を出る前に似たようなことをやられたけど」
メロディも王命を受けたのか。
「何て?」
「ああ、何とかしろみたいな文言だった。
その時点では王政府も何をすればいいのか判ってなかったからな」
「何それ酷い」
「そんなものだ。
そもそも何をすればいいのか最初から判っていたらわざわざ王命なんか出さない」




