287.志願
まあいい。
今までだってお飾りだったんだし、それしか出来ないのよね私は。
今やってる公爵のお仕事だって、よく考えたら誰にでも出来そう。
だって書類にサインするだけなんだもの。
それで公爵領が動くと思うと身震いがするけど、もうどうしようもないので考えないようにしている。
「それで?
その神聖軍事同盟とやらが出来たらどうなるの?」
よく判らないので聞いてみた。
「私達の前世の世界にあった神聖ローマ帝国をモデルにしたいと思っている。
仮想的な統一国家を作ってトップに皇帝を置く。
この場合、皇帝ではなくて盟主ということになるが」
メロディが何でもないように言った。
ちょっと待って!
「その盟主とやらをやれと?」
「何、簡単な仕事だ。
色々な決定は元老院が行うから、君は承認するだけでいい」
何ということを!
元老院って何よ!
「まだ名称は決まっていないんだが、まあ議会みたいなものだな。
各国の国王やその代理が参加して対外政策を議論して決定する。
この場合、とりあえずは他大陸からの侵攻の対処だが」
メロディはあっさり言うけど、それって凄いことなのでは。
だって事実上の大陸統一なのよ?
大昔にあった大帝国の再現なのでは。
それを言ったら否定された。
「そんなことはない。
各国は独立しているし、各統治は各王政府が行う。
ただ、対外軍事政策だけを統一して行うというだけだ。
もっとも」
メロディはニヤリと笑った。
「参加したからにはそれ相応の協力はして貰う必要があるがな。
参加しないことも可能だが、そうすると他国との関係が微妙になる」
ああ、そうか。
やっと判ってきた。
メロディは私の前世の人の世界にあった国際組織を作りたいんだ。
それは私がいなくても可能ではある。
他大陸からの軍事的脅威が迫っていることは周知されているし、協力してことに当たろうという意識もあるから。
だけど、そんな組織は船頭がいないと迷走するだけだ。
特に軍事組織だとすると、頭がいくつもあったら決められる物も決められない。
どこかの国にトップをやらせるのは駄目だ。
飛び抜けて有力な国がないと、どうしても派閥争いが起こる。
それはすぐに足の引っ張り合いに発展する。
そんな組織が上手くいくはずがない。
「偶像、か」
「そうだ。
全王家が認める権威というか象徴が必要だ。
そしてマリアンヌ、君がそれなんだよ」
「巫女様の元に大陸が統一されます。
そしてマリアンヌ様はすべての者共の上に君臨されます」
ロメルテシア様がますます変になっていく。
妄想が加速しているなあ。
元々ロメルテシア様って浮世離れしているからね。
もう手遅れか。
「……というわけだ。
マリアンヌ、承知して欲しい」
メロディがズバッと切り込んできた。
もう嫌だとか言えないよね。
「それ、私としては何をすることになるの?」
とりあえず聞いておく。
「そうだな。
基本的には坐っているだけでいい。
時々パレードとか演説とか宣言とかはして貰う必要があるが」
神輿そのものだ(泣)。
「それだけ?」
「ああ。
そもそもトップとはそういうものだ」
メロディは達観しているみたいだった。
頭がいい人だから悟ってしまったのかも。
それにしては楽しそうだけど、やっぱり戦略SLGのプレイヤーやってるつもりなのでは。
「しょうがない!
判りました。
やります」
観念した。
ふと思い出したんだけど、私の前世の人の国は大昔に大戦争をやって負けたそうだ。
その末期に特攻といって、ほとんど自殺でしかないような攻撃に参加する志願者を軍隊から募ったらしいんだけど。
話によれば選択肢が2つしかなくて、「志願します」と「熱烈に志願します」だったそうな。
しかも前者を選ぶと上官から殴られて「愛国心が足りない!」と罵倒されて選び直させられたとか。
今の私って似てない?(泣)
そんな私の気分に構わずメロディとロメルテシア様が議論していた。
「ミステアの状況はどうか」
「順調でございます。
既に神聖軍事同盟の会議場および事務局の整備は完了して、現在は宿泊施設その他を整備中と」
「物理的な準備は楽で良いな。
組織はどうだ?」
「中核職員は選定済みでございますが、一般職員の募集はこれからでございますね。
大半がミステアの者になってしまいますが」
「それは仕方が無い。
まあ、幹部職員は各国から派遣されることになるからな。
それに立ち上げてから数年は混乱状態が続くだろうし。
ゆっくりまとめて行けばいい」




