283.最高権威
何となく納得したのでメロディには帰って貰ったんだけど、考えてみたら何の解決にもなっていないことに気がついた。
ロメルテシア様によれば、私は既にミストア神聖教の巫女であり最高権威だ。
でもそれは「ミストア神聖教」内部においてであって、神聖国内では何の権限もない。
ミストアの国民に聞いても多分、大部分は知らないんじゃないかな。
自分たちの生活に直接関係しないからね。
もちろんミストアの聖職者たちは知っているだろうけど、やっぱりあんまり関係がない。
巫女としての私はミストア教会や政府では仕事とかお役目とかってないから。
だったら何で派手な叙階式なんかやろうとしているんだろう。
ていうか叙階自体は済んでいるんだから、これは単なるお披露目だ。
そこまで考えて気がついた。
それかよ!
つまり私を大々的に喧伝するための儀式か。
各国の主権者を呼んで私を直接紹介するというか、ミストアが私の後援者になったことを示すというか。
慌ててメロディとロメルテシア様を呼びかけかけて踏みとどまった。
これ、私は知らない方がいい件じゃない?
あの人達は何らかの計画で私を必要としているんだろう。
つまりこれってその計画の一環だ。
私が当事者であることは間違いないんだけど、私の役目って多分案山子とか神輿だ。
自分では何もしなくて担がれているだけでいいという。
私の前世の人の理系頭脳が結論を出しそうになったけど、敢えて踏みとどまる。
こんなことを真面目に考えていたら頭がパンクしてしまう。
知らない振りをしていればいいのだ。
黙々と公爵領の書類決裁に励み、あいかわらず謁見を申し込んでくる貴族の皆さんと無意味な会談を行って愛想をふりまき、昼と夜には王女様方や見習い侍女の皆さんと一緒に食事したりしているうちにそろそろ初夏というべき季節になった。
ちなみにテレジア王国には私の前世の人の国みたいな雨ばかり降る季節はない。
ゆるやかに気温が上がって気がついたら暑いというか。
「神聖軍事同盟準備委員会の立ち上げ準備が整いました」
突然、ライラ様に言われた。
いや侍女見習いか。
というよりは学院の助教であり研究室主催というべきかも。
「……何だったっけ、それ」
「殿下が盟主を務められる国際組織でございます。
正式な発足は後日になりますが、準備委員会として非公式に活動を開始いたします」
なので是非、激励をと言われても五里霧中なのよね。
「それってメロディとかの陰謀?」
「あんまりな言い方ではございますが、あながち間違ってはいないかと」
やっぱりか。
もちろんメロディだけじゃなくてテレジア公爵家が主催する研究室全体がどっふり浸かっているんだろうな。
おそらくはテレジア王家や王政府公認の元に。
いや、下手すると他の国の王家や政府も関係している可能性がある。
あんまり考えないようにしていたけど、周りでこれほど派手に動かれると大体方向性が見えてくるのよね。
もはや止めようがない。
私が嫌だと言っても意味はないし。
「判りました。
いつ頃になりそう?」
「明日でございます」
さいですか。
もういいよ。
翌日、私は起き抜けにお風呂に放り込まれていつもより念入りに洗われた後、これでもかというくらい飾り付けられた。
今回はミステア神聖教は関係ないと言う事で、テレジア公爵家の正式な正装だ。
髪が巻かれ、やっぱりティアラに見えなくもない髪飾りを付けられる。
何か大きくなってない?
別にいいけど。
支度が終わったら馬車に連行されて離宮から連れ出される。
どこに行くのかと思っていたら学院だった。
学院は元お城というか要塞なので、建物の前に広い広場がある。
学生や教授は実は裏門から入るので、私もこの広場には入ったことがなかったんだけど。
要塞だけあって軍隊が整列出来る程の広場が人で埋まっていた。
もっとも整列しているのはごく一部で、それ以外の人は遠巻きに見物しているだけみたいだけど。
関係なさそうな学院の学生さんたちも集まって来ているようだ。
何が始まるんだろう。
準備委員会の発足式にしては大げさ過ぎない?
馬車が停まり、私は侍女や護衛に囲まれて降りた。
ふと後ろを見たら馬車が続々と続いている。
王女様方も来るのか!
ていうか、どうみてもテレジア王家の馬車もある!
委員会の発足式じゃなかったの?
「殿下。
こちらへ」
専任侍女に案内されていつのまにか用意されていた席につくと、護衛の近衛騎士が回りを固めた。
大げさな。
と思ったけど違った。
メロディやロメルテシア様を初めとする各国の王女様やそのお付きが続々と集まってくる。
最後はテレジア国王陛下まで来賓されてしまった。
「どうなるの?」
「マリアンヌは何もしなくていいから」
メロディは平然としているけど、これってもう国家的いや国際的な行事だよ!
多国籍もいいところだし。
貴顕が集まりすぎている。
どないしよう。




