27.世襲?
ふーん。
でもまあ、私にはとりあえず関係ないか。
そう言ったら否定された。
「学院にもそういう法衣貴族の子弟って結構いるから。
私だって法衣貴族の娘だし」
「ああ、そうか。
法衣貴族でも貴族家になるわけね」
「一代爵位だから世襲とかはないんだけど……でも実際にはよくある話よ」
エリザベスの家も法衣男爵だから、本当言うと現在の男爵様が引退されたら貴族ではなくなるはずなんだけど。
でも嫡男というか跡継ぎが次の男爵になるらしい。
「世襲なの?」
「違うけど。でも男爵家として商売しているわけだし、次の代で貴族じゃなくなったら色々支障が出るのよ。
取引先とか財産とか。
その家だけじゃなくて社会的にも混乱する」
なるほど。
なので実質的には世襲なのだそうだ。
ただし必ずしも嫡男が後を継ぐわけではないらしい。
それはそうだ。
血族だからといって商才がない者に後を継がせたら身代潰すかもしれない。
「法衣貴族はみんな同じね。
例えば今の法務大臣って法衣子爵様なんだけど、嫡男の方がもう法務省で働いていらっしゃるから」
「そうか。子供の頃から跡継ぎとして育てられるんだ」
「適当な時点で補佐とかになって、代替わりする頃には立派な大臣候補者になるというわけ。
まあ、決定ではないんだけれどね」
怪我や病気で亡くなってしまうかもしれないし、何かスキャンダルとか不祥事で失脚する可能性もある。
あるいはお仕事で失敗して王様の逆鱗に触れて馘首とか。
「その場合は?」
「私もよく知らないけど、予備というか代役候補が用意されているという話よ」
それもそうか。
貴族家だって嫡男がいても次男とかが控えているもんね。
それもいなかったら親類の子弟なんかがリストアップされていたりして。
「エリザベスも男爵様の後継候補なの?」
思いついて聞いてみた。
「それはないわね。
一応、それなりの教育は受けているけど、やっぱり貴族は男社会だから。
特例で女性が爵位を継ぐ場合は大抵、中継ぎね」
「一応は出来るんだ」
「禁止の規定はないわよ。
過去には女王陛下もいたくらいだし。
でも実際にはなかなかね。ほら、女性って生理学的に不利でしょ」
「ああ、そうか」
よく判る。
女性は出産しなきゃならないし、それでなくても生理がある。
これ、男の人には判らないと思うけど結構きついのよ。
人によって差はあるけど痛いし考えが散らばるし、それが数日続くんだもの。
何か重要な決定をしたり事故や災害の対処をしたりしなきゃならない時に生理になったりしたら大変なのは判る。
「貴族家当主は辛そうね」
「そう。
だから淑女は裏から支配する」
エリザベスがニタリと笑った。
さすがだ。
サポートキャラじゃないよねもう。
黒幕か。
「まあ、そういうわけで私は男爵なんか継がないから。
そもそも男爵なんて大したことはないわよ。
世の中はお金」
「さいですか」
「貴族家と言っても永遠とか絶対じゃない。消えたり失脚して降爵させられたりする。
逆に昇爵したり叙爵されたりして増えたりする」
「それは判るけど」
私にはとりあえず関係ないな。
「で、何の話だったっけ」
「確か結婚だったような」
エリザベスと顔を見合わせて笑ってしまった。




