276.巻き込み
「ミストアの後援を受けまして」
ああ、メロディってミストアの巫女でもあるんだっけ。
ロメルテシア様なら無条件でお金を出しそう。
いいんだろうか。
ていうか何でテレジア公爵家の配下組織になってるの?
「マリアンヌ様は巫女でございますので」
ああ言えばこう言われてしまった。
口では勝てない。
そんなこと言い出したら身長でも美貌でも胸でも頭の良さでも勝てないんだけど。
私が勝てるのは悪名だけだ。
雌虎は譲らない。
久しぶりにメロディとロメルテシア様が揃ったということで、晩餐に呼んでみた。
他の王女様方には内緒だ。
「それで?」
「あー、悪かった」
メロディが謝ってきた。
「マリアンヌが忙しそうだったんで独断で進めてしまったが、いいか?」
いや、やってしまってから許可を求められてもね。
「私を巻き込まないで欲しかったな」
「そう言うな。
これはマリアンヌがいたからこそ出来たことなんだ」
長くなりそうだったのでとりあえず中断して食事する。
メイドや給仕、護衛騎士が回りにいるのに出来る話でもないしね。
黙々と食べて、みんなで居間に移って人払いするとメロディが話してくれた。
他大陸からの脅威についてはかなり前から懸念自体はあったそうだ。
だけど私たちの前世と違って通信手段が未だに早馬くらいしかないし、そもそも定期的な各国間の連絡すら怪しいので、情報共有に結構時間がかかった。
メロディの献策で信号塔や伝書鳩とかを開発してはいるけど、まだ途上で心許ない。
しかも国ごとに事情が違うし、何か言うと侵略じゃないかと疑われたり内政干渉だと反発されたりして困っていたと。
「一番拙いのは平和が続いたことだな。
危機意識が薄いんだよ。
しかも国ごとに明暗が分かれる。
臨海国は直接の脅威があるから意識が高いけど、内陸国は我関せずで」
「そんなことやっていたの!」
知らなかった。
だって私、一介の公爵だし。
国レベルでの問題なんかアウトオブ眼中なのは仕方がないと思う。
「メロディは何で関わっているの?」
「シルデリア、というよりはサラナ連合王国は長い海岸線を持っているからな。
実際、偵察船が近くまで来たこともある。
交戦はしなかったみたいだけど」
「大変じゃない!」
「まったくだ。
というわけで私には人ごとじゃないんでね。
父上からも何とかしろと言われているし」
それは無茶ぶりなのでは。
ていうかメロディなら何とかしてしまいそうだけど。
ああ、それでか。
テレジア公爵に積極的に関わってこれたわけだ。
前から不思議だったんだけど、メロディはシルデリアの第一王女だ。
言わば国の最重要人物。
そんな人が「きちゃった」でテレジアに留学してくるのは不自然でしょう。
何か目的がないと。
そしてこれが目的か。
「相変わらず鋭いな。
そう、私は密命を受けている。
テレジア公爵に取り入ってその影響力を利用するように、と」
「露骨に」
「私だけじゃないぞ。
今回集まってきた王女たちはみんなそれなりの使命を持たされているはずだ。
少なくとも各国の王家や政府は程度こそ濃淡あるが危機を認識してはいるからな」
そうか。
別に私の肉親だから来たわけじゃないと。
それはそうだよ。
だって王家の者だよ?
何かやるとしたら国を守るために決まっている。
「それで?
何やってるの?」
聞いたらメロディは満面の笑みを浮かべた。
「マリアンヌ。
君の存在は奇跡だ。
考えられないくらい順調に話が進んでいる」
「だから何を」
するとロメルテシア様が口を挟んできた。
「巫女様の威光で急速に国家間の意識統一が進んでいます。
具体的には国際間協調が現実味を帯び始めております」
「……よく判らないんだけど」
「考えてみろ。
テレジア公爵家を核として各国の王家の者が集まった。
王女だが王家の者には違いない。
つまり、各国の王家や王政府に直接意思疎通が出来る。
これって凄い事だぞ?
少なくともこんな状況は古の大帝国以来だ」




