274.危機
パーティは大成功だった。
王女様方は全員が知己を得て、その中でも仲の良いグループやチームが出来たらしい。
メロディが私の指示だと言って今後の方針を話したそうだ。
そういえば王女様方って遊びに来たわけじゃないのよね。
建前上は学院の私の研究室に研究生として所属することになっている。
つまり任務というか担当がある。
早速、王女様方が集められて侍女見習いから説明を受けていた。
助教としてそれぞれ自分の分室を持つ事になるらしい。
研究員を募集しているそうだ。
私が知らないうちに話がどんどん大きくなっている。
「既にある程度の組織化は済んでおります」
「いつの間に」
「検討会を開いておりましたので」
私、知らないんだけど。
聞いてみたら私がテレジア公爵領領主としてのお仕事に没頭している間に進めたそうだ。
驚いた事に、既に研究室どころか実務棟の選定も済んでいるという。
「実務って?」
「殿下に下された勅命に従い、テレジア公爵家は独立した渉外組織を立ち上げます。
これは、建前上は王政府の配下にありますが実際には人事その他を切り離して組織します」
ビビッた私が説明を求めると参謀が来て教えてくれた。
つまり宰相府いや王家公認か。
「もうそんな話まで出ているの!」
「本来ならもう少し慎重に進める予定だったのでございますが」
いくらなんでも急ぎ過ぎじゃないかと思ったら理由があるらしい。
ライラが声を潜めるようにして教えてくれたのはとんでもない話だった。
「これはまだ各国の上層部しかご存じないのですが、ここ数年で他の大陸からの偵察隊らしき船の目撃情報が増大しております」
「その噂は聞いてるけど」
「実際には更に過激でございます。
正体不明の武装船の乗組員が島嶼に上陸したり、漁村を襲うなどの情報もあがっております」
「好戦的なのね」
「先方からすれば未知の大陸でございます。
危険に備えて武装するのは当然でございますが」
でもまだ偵察だ。
これってあれかも。
私の前世の人の世界でも、何百年か前には植民地ってものがあったらしいのよ。
どういうことかというと、技術的に進んだ国がそうでない国や土地を侵略して入植するという。
その場合、もともとそこにあった国は滅ぼされて住民は奴隷や下層民にされる。
逆らったら皆殺しだ。
これ、乙女ゲーム小説じゃなかったっけ?
何で戦国RPGになってるのよ!
「大変じゃない!」
「はい。
現時点でもし侵攻を受けたら勝ち目はございません。
技術的に遅れている上に各国がバラバラで、各個撃破されるのは目に見えています」
「それってテレジア王政府の結論?」
「国際的な会談で情報共有を進めておりますが、なかなか各国の足並みがそろわず」
そうでした。
大昔の大帝国時代なら大陸全土が一丸となって対抗出来たかもしれないけど、今は国が乱立しているものね。
私の前世の人の世界には色々な国をまとめる組織があったみたいだけど、それは文明が進んでいたからだ。
前にメロディと話したんだけど、テレジア王国を含むこの世界は私の前世の世界で言えばまだ中世だとか。
そういえば船は帆船だし交通手段は馬車だ。
飛行機なんか概念すらない。
内燃機関はまだ開発されていない。
蒸気エンジンの実験はどっかでやっているらしいけど実用化されていないはず。
でも銃や大砲はあるし、戦争しようとしたら結構派手に出来てしまいそうなのよね。
海軍もあって船には大砲が積んであるらしいし。
「その、よその大陸ってそんなに進んでいるの?」
聞いてみた。
「そのようです。
国家機密なので他言しないで頂きたいのですが」
ライラ、平然と国家機密漏らしちゃ駄目でしょう!
ていうかよく知ってるわよね。
これ、多分お父上が国王陛下の参謀だからというわけじゃなくて、どうみてもライラ自身が参謀枠に入っている臭い。
でなければここまで詳しいはずがない。
ひょっとしたら非公式に私に情報を伝えるお役目なのかも。
「それはもちろん」
「実は、既に複数の武装船や偵察船を拿捕しております。
自ら投降した者もいるようで、尋問の結果や船の装備を調べたところ、我々より技術的にかなり進んでいる事が判明いたしました」
そうなの。
技術が進んでいる国の船を拿捕するって、よく出来たな。
「何分、相手は遠征中で孤立無援でございますから。
数で囲んで袋叩きにしたようでございます」
なるほど。
多分、進んでいるといっても相対的にであって、私の前世の人の世界ほどじゃなかったんだろうな。
文化はともかく文明って総力戦だから、例えば進んだ知識があっても冶金とか金属精錬技術が追いついてなければ優秀な武器は作れない。
内燃機関も出力を増やすためには高度な金属加工技術が必要で、もっと言えばそれを製作出来るだけの設備がないと作れないものね。
「でも、今のところは勝てるのよね?」
「それは相手が単独もしくは少数で、しかも補給なしで遠征してきているからです。
本格的に侵攻されたら負けます」




