273.流行
「シェルパトーレ姉様もご希望してマリアンヌ姉様のところへ?」
無邪気に切り込む妹。
自分より年上はみんな姉様なのか。
「はい。
マリアンヌ様の情報が伝わって参りまして、国王陛下が『ゼリナとしてもこの波に乗り遅れるわけにはいかん。誰ぞ』とおっしゃって」
波ってなんだよ。
いや判るけど。
「それでご指名されたのでございますか」
「いえ、我も我もと志願が殺到いたしまして。
ゼリナの王家は人数が多ございますからね。
自己主張が弱いと埋もれてしまいます。
それに、やはりマリアンヌ様が流行ですから」
流行って何だよ。
私、ゼリナでそんな扱いになってるの?
「どうやって決めたのですか?」
妹ってマジ使えない?
私が聞きたいことを率先して聞いてくれたりして。
「収拾がつかなくなりそうでしたので、急遽弁論大会を開きました。
希望者はそれぞれ、いかに自分がマリアンヌ様の元に赴くに相応しいかを主張して」
何やってんだよ!
「投票で優勝者を決めたのですが、同票が3名出てしまって、最後はくじ引きでございました」
そんなドラマがあったとは。
色々な王家があるなあ。
「おめでとうございます!」
妹が満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとう。
実際にマリアンヌ様にお目にかかって、私の判断は間違っていなかったと確信致しました。
本当に私は運が良い」
「確かにな」
レイサーゼが重々しく言った。
「私も半信半疑、というよりはむしろ賭けだったのだが、今になってよくぞ志願したと自分を褒めてやりたい。
マリアンヌがこれほどの傑物とは思わなかった」
「本当です!
マリアンヌお姉様は最高です!」
レイサーゼもパルマティアも何を言っているんだか。
いくら親類だからって言い過ぎではないのか。
「……まあ、こんなところかな。
色々と話したいことはまだあるが、そろそろ待っている連中が限界だ」
レイサーゼが苦笑しながら言った。
待っている連中?
振り返ると、いつの間にか他の王女様方が皆さん無言でこっちを見ている。
視線に怨念が籠もってない?
例外はメロディとロメルテシア様だけで、二人はなごやかに話しながら坐ってスイーツを食べていた。
ブレないな。
「そうですわね。
それでは」
「マリアンヌお姉様。
また後で」
一斉に立ち上がる私の親類の皆さん。
本当に思い切りがいいなあ。
私はため息を押し殺して次の組を迎えた。
結局、合計3組の王女連合とそれなりにお話してある程度の知己を得たところで無礼講になった。
ちょっと疲れたのでお花摘みに行くついでに控え室で休憩する。
「パーティはどう?」
専任侍女に聞いてみた。
「皆様、それぞれ自己紹介後はご自由に会話されております。
メロディアナ様とロメルテシア様が場を仕切っておられて」
やっぱそうなるか。
他の王女様方もなかなかの強面だったけど、あの二人は別格だからね。
私との距離が近いし母国も強い。
「問題とか起こってない?」
「和気藹々とした雰囲気でございます。
何でも最初に私たちは同胞です、というような宣言がなされたらしく」
何の同胞なんだろう。
同志でないだけマシか。
「私はこのまま隠れちゃ駄目かな」
「それはちょっと。
主催者でございますので」
それはそうだ。
私はパーティ会場に引き返して喧噪に身を投じるのであった。




