271.優秀
「そんなに?」
「ああ、ハイロンドでは働かざる者喰うべからず、というのが鉄則でね。
王女だからといってサボってばかりいたらどっかに飛ばされる」
おっかないなあ。
王家内部でも生存競争やっているのか。
ん?
飛ばされるって。
「飛ばされるのですか?」
パルマティア様、じゃなくて妹が聞いてくれた。
「具体的には輿入れだ。
ハイロンド王家と繋がりたい家は多いからな。
王女といえど王家内で存在価値を証明し続けないとすぐに」
厳しい。
そういえばハイロンド国王陛下は私の祖母上が子供を産んだことがある「から」王室に迎え入れたんだったっけ。
つまり多産が重視される。
逆に言えば、政略結婚で王女を飛ばしても大丈夫なくらい王家の者が多いとか。
それを聞いたら頷かれた。
「私の身内は多いぞ。
王家は王室だけじゃないからな。
傍系も准王家として権利が認められているから有資格者の公子や公女がうじゃうじゃいる。
その半分はもうどっかに婿入りしたり輿入れしたりしているが」
そうなの。
「輿入れしたくないのですか?」
妹が無邪気に聞いた。
若いって素晴らしい。
「したいとかしたくないとかではないな。
私とて王室の者だ。
義務は心得ている」
「ならば」
「どこに、というところが重要だ。
ハイロンドも身分にかかわらず、輿入れしたらそれで終わりというわけではない。
むしろそこからが始まりと言える」
そうなのか。
それはそうだ。
私の前世の人が読んでいた乙女ゲーム小説的なお話は大抵は結婚で終わっていた。
童話じゃないんだから「それからみんな幸せに暮らしました」という結末はあり得ない。
特に王家や高位身分の方々は結婚してからが本番だ。
「私たちはいずれどこかに輿入れするわけだが、その際希望が通るかどうかはそれまでの実績が関係してくる」
レイサーゼ様は淡々と続けた。
「実績でございますか」
「そうだ。
……ところで私もざっくばらんに話したいんだが。
とりあえず敬語や『様』は止めて欲しい」
やっぱりか。
年上だから一応は敬語つけてたんだけど、そういうのはやっぱり居心地が悪そうだ。
「わかりました」
「それがご希望ならば」
「みんなお友達ですね!」
いやそれは違うと思うぞ妹よ。
「……ハイロンド王家では成人前から自分が将来何をやりたいかを自己申告することになっていてね。
もちろん後で変更も出来るんだが、申告したお仕事の見習いをやらせて貰える。
言わば専門教育実習だ」
意外。
王家の者ってオールラウンドプレイヤーだと思っていた。
「何をしたいか、とは?」
「むしろ方向性かな。
外交とか内政とか軍事とか法務とか。
もちろん全部出来るに越したことはないが、ほとんどの人間は超人じゃないから無理だ。
まあ、ある程度は万能型であることが望ましいが、その中で専門特化する能力を伸ばすことが推奨される」
ハイロンドの王族って大変そうだな。
ああ、そういうことか。
「つまりハイロンドでは王家の者が自ら統治者の側近を務めると」
「その通りだ。
さすがはマリアンヌ」
レイサーゼが感心したように言った。
「傑物とは聞いていたがこれほどとは。
ハイロンドに来れば頂点を目指せるぞ」
「遠慮させて頂きます」
私とレイサーゼが漫才をやっていると妹が戸惑ったように言った。
「え?
今のお話でどうしてそういう結論になりますの?」
可愛いなあ。
まだ14歳、しかも箱入りだもんね。
それでも私なんか16歳だった時ですら学院の入試に失敗して「始まりの部屋」送りになっていたんだから、それに比べたら十分優秀とは言える。




