269.紐付き
そして日常が戻って来た。
もちろん違うところもある。
まず、他国の王女様方が離宮に引っ越してきた。
メロディやロメルテシア様は既に事務所を構えているけど、研究生として受け入れた方々は王女ご自身に侍女やメイドを含めても十人以下だ。
それでも多いけど。
護衛騎士や下僕は別のところに住んで貰うことになった。
いや、さすがに他国の騎士とかを大量に受け入れるわけにはいかないでしょう。
ここはあくまでテレジア公爵の離宮なのであって公共施設でも王政府の施設でもないんだから。
それに、テレジア公爵が引き受けた以上は私が王女様方を守る義務がある。
離宮の中では。
一歩外に出たら自己責任なので、護衛の方々はエントランスからお勤めを果たすことになる。
王女様方が落ち着いた頃を見計らって、離宮の広間で懇親会を開いてみた。
テーブル型式にすると私と同席出来るかどうかで席の争奪戦が起きそうなので立食式だ。
もちろんずっと立ったままは辛いので、壁際にはソファーを配置する。
王女様方には好評だった。
こんな型式のパーティは初めてだそうで。
王女だったらどんなパーティでも基本は主役だものね。
それどころか女主人役を押しつけられる可能性が高い。
しかし今回は同格の王女が大量にいて、しかも自分は客ということで気楽な立場だ。
王家の者としての礼儀も必要ない。
同格相手に気取っても仕方が無い。
それを説明したら皆さんはしゃいだりして。
懇親会場はたちまち日本の女子高生のサークル部室みたいになってしまった。
「さすがでございます」
ロメルテシア様がなぜかうっとりと私を見つめながら言った。
瞳が潤んでない?
「何が、でございますか?」
「すべてでございます。
その人心統率力。
難しい立場の者共を分け隔て無く扱い、反感を買わずに融合させる社交術。
さらに、これだけの他国の貴顕を受け入れて平然と対応する組織と資金力。
おそらくは歴代の巫女の中でも突き抜けておられるかと」
そんな風に見えるのか。
私は基本、家令や家令代理に丸投げしているだけなんだけど。
「まあ、確かにお金の問題はありますね。
現時点では完全に持ち出しですので」
孤児院出の元男爵家庶子からみたら、このパーティって狂気の沙汰だ。
いくらかかっているんだろう。
「マリアンヌ様がお命じ下さればミステアが」
「それは断る。
これにミステアの関与はいらないから」
私にだって判る。
ミステアは神託宮の予算として信じられないほど巨額の流動資金を提供してくれたんだけど、それはミステアのために使うお金だからね。
ここにいる王女様方はテレジア公爵のお客だ。
ミステアには関係ない。
「……マリアンヌ様は、まごうこと無き巫女でございますね」
ロメルテシア様の頬が紅潮しているけど何かあったの?
何か居たたまれない気持ちになってきた所にメロディが声を掛けてきた。
「マリアンヌ殿。
相談があるのだが」
この際何でもいい。
「何でございましょうか。
お部屋を用意させますか?」
逃げたい。
「いや。
今皆と相談していたのだが、王女共を引き受けるに当たってテレジア公爵家に負担がかかっているのではないか?」
言われてしまった。
そんなこと、この場で言うべきことではないんだけど。
「皆様をお引き受けしたのはテレジア公爵家でございますので」
「それは判っているが、御身の負担が大きすぎる。
なので、我らの母国から資金提供をさせていただきたいと思ってな」
いつの間にかメロディの後ろには王女様方がずらっと並んでいる。
凄い。
だって全員が王女様や皇女様なのよ。
それぞれ贅を尽くしたドレスを纏っていらっしゃるし礼儀も完璧。
ティアラがキラキラして全員がセンターだ。
私の前世の人が観ていたアイドルなんかとは比べものにならない華麗なグループだったりして。
「それはお断りさせて頂きます」
私はきっぱりと言い切った。
家令に言われてるのよ。
よそから支援を受け入れたら紐付きになってしまう。
テレジア公爵家として。それは出来ない。
そんなことはメロディだって判っているはずなのに。




