26.貴族は3種類
エリザベスによれば貴族家は大まかに3種類に分類されるそうだ。
ひとつは領地貴族家。
自分の領地を持っていて統治する。
これは王家も含まれる。
もちろん商売もするんだけど、例えば公爵家や侯爵家のような高位貴族家は基本的にタッチしない。
伯爵家でも珍しい。
そういうのは配下というか寄子の貴族にやらせるらしい。
これは領地管理も同じで、だから派閥のトップがやっているのはある意味人事管理だけだとか。
「よく知ってるわね」
「こんなの貴族なら常識よ?
侯爵様や伯爵様が領主として商人と商談したりすると思う?
あるいは自分で領地を差配したりとか」
言われて見ればその通りかも。
高位貴族ってただの偉い人というよりは統治者なのよね。
つまり自分が働くんじゃなくて、働く人を治めるというか。
管理も配下の人にやらせる。
私の前世の記憶だと、知事とか市長が役所の官僚に仕事させるようなものか。
これが王様だったら総理大臣とかになるわけで。
そういう人たちは実際の社会活動にはタッチしない。
命令するだけだ。
「二つ目は高位貴族の寄子ね。
代理で何かする」
「何かって?」
「あらゆることよ。
習ってないかもしれないけれど、伯爵までは基本が領地貴族なの。王家から直接自分の領地の統治を任される」
「え?
貴族って領地の所有者じゃないの?」
驚いて聞いたらエリザベスに呆れられた。
「王国の土地はすべて王家のものよ?
どんな貴族でも領地の代理統治権を与えられているだけ」
そうなのか。
「つまり、伯爵以上の貴族は王様に直接仕えていると」
「そうだけど、むしろ領地を貸し与えられている。
まあこれは原則で、実は色々あるんだけどね。面倒くさいから省く」
エリザベスがちらっと教えてくれたけど、実は色々なパターンがあるのだそうだ。
辺境伯とか大公領とか。
こんがらがるから今はいいや。
「すると子爵とか男爵とかは?」
「寄親の貴族家から、その貴族の領地の一部を任されている家ね。
統治権というよりは管理権。
あなたの実家もそうよ」
そうだったのか。
だから私が寄親の伯爵様のタウンハウスに居候させていただけていたりして。
つまりはヤドカリ?
「で、3つ目が法衣貴族ね。
これは領地を統治したり管理したりしてない貴族全部」
「法衣ってお役人かと思っていたんだけど」
「最初の意味はそうだったんだけど、例えば私の家は商売で成功して授爵したわけ。
だから領地持ちじゃない。
その代わりに商売上の特権を与えられている」
だから税金もたんまり取られるのよ、とエリザベスは笑顔で言った。
「そうか、領地はないんだ」
「商人上がりはみんなそうよ。商人に領地の管理なんか出来るわけ無いでしょう」
確かに。
仕事がまったく違うわけか。
「同じように王政府の役人にも領地はないから。それが本当の法衣貴族」
「お役人ってみんな貴族なの?」
聞いたらため息をつかれた。
「そんなわけないでしょう。上の方だけよ。具体的に言うと役付。何々長官とか何とか大臣とか」
「そうなんだ」
「もともと役人は貴族じゃない人がなるのよ。貴族家の跡継ぎ以外とか」
「ああ、本当の貴族って爵位持ちとその正室、あとその跡継ぎだけだったっけ」
「そうそう。あなたも私もお嬢様と呼ばれてはいるけど身分としては平民ね。
まあ貴族年鑑に登録されているから平民よりは上だけど」
そう、家庭教師に教わったんだけど、本当の貴族ってもの凄く少ないらしいのよ。
具体的には今エリザベスが言った通り、爵位を持っている本人とその正室つまり正式な奥様、そして嫡子だけ。
それ以外は血が繋がっていても貴族とは言えない。
「貴族家のもの」という扱いになる。
「話を戻すと、役人ってもともとは貴族家の嫡子じゃない人の仕事だったらしいの。
その人たちも食べて行かなければならないしね。
貴族じゃないといっても貴族のやり方に慣れていて知己もあるから適任だったということで」
「なるほど」
「でも国が大きくなると、どうしても政府や役所が大規模になってきて、平民を使うようになった。
最初は下働きだったんだけど追いつかなくて、だんだん重要なお役目に平民がつくようになって」
そうなると平民の身分のままでは上手くいかなくなってきたそうだ。
それはそうだよ。
政府の役人なんだから平民だけじゃなくて貴族も相手にするわけだ。
貴族からしたらいくら政府の役人と言っても平民の言う事なんか聞くわけがない。
「それで領地を持たない貴族、つまり法衣貴族が生まれたと」
「身分だけは高いことになるからね。
私もよく知らないけど、平民でも出世して大臣くらいになったら法衣爵位を貰えるらしいよ」




