268.滞在許可
よく眠れたらしくて翌朝の目覚めは爽快だった。
やっと終わった、という安心感も大きい。
専任メイドの指揮でお風呂に放り込まれて洗われてから食事。
その後、髪を乾かしながら家令の報告を聞く。
「昨日のパーティは特に混乱もなく終了しました。
来賓の方々は迎賓館でお休みになられております」
「ご身分からして王家の客人だから?」
「はい。
ですが、早速殿下に要請が来ております。
是非、離宮でのご滞在の許可を頂きたく、と」
やっぱりか。
予想はしていた。
そもそも迎賓館って王家というよりは国のお客を泊めるための施設だ。
他国の王族だから受け入れてくれたんだろうけど、本来あの王女様とお付きの人達はテレジア王家や王政府とは関係ないのよね。
外交使節ですらない。
言わばテレジア公爵の個人的な客だ。
「王家は何と?」
「よろしく、と」
丸投げする気だな。
それはそうだよ。
だって客人は他国の王族だ。
何かあったらたちまち国家的な責任問題に発展する。
だから「テレジア公爵がすべて引き受けている」と言い張って逃げるつもりだろう。
「しょうがないわよね……」
「非公式ですが王命でございます。
現在、閉めてあったお部屋を整備中です」
今まで黙っていた家令代理が淡々と言った。
仕事を投げられたな。
下っ端は辛い。
「何とかなりそう?」
「問題ないかと。
ただ、各国の方々には滞在人数の制限をお願いしたく」
「判った。
ヒース」
「お心のままに」
アーサーさんも立派になったなあ。
自分の権限をしっかり把握して、及ばない部分はきっちり投げてくる。
王女やそのお付きに何か言えるほどの立場にはないからね。
だからまず私に投げて、私の言質をとって家令に任せると。
ヒースはヒースで、身分は低いけどこの場合、テレジア公爵の名代として動ける。
そういう手続きが必要なのよね。
疲れる。
「他には?」
「王女様方より個人的な謁見、いえ面談の要請が」
「ああ、それはそうか」
考えてみたら禄に話していない。
人数が多すぎて。
「予定は何とかなりそう?」
「問題ございません。
何度かに分けていただければ」
「じゃあ、その方向で」
「お心のままに」
そういう用事が入るからといって公爵の仕事がなくなるわけでもないのよね。
高位貴族になんかなるもんじゃない。
ふと思いついて聞いてみた。
「テレジア公爵領はどう?
お祭りとかやったの?」
「報告に拠れば恙なく終了したそうでございます。
昨日は領土全体で仕事を休み、食料庫を開いて呑み食い放題で」
「気前がいいのね」
「何、大したことはございません。
テレジア公爵領は優良領地でございますれば」
私の前世の人が読んでいた本や見ていた絵物語だと、災害や飢饉で立ちゆかなくなって住民が逃げ出したり飢えたりするのがむしろ基本だった気がするけど、実際には滅多にないそうだ。
テレジア王国は王家と公爵家の力が強く、貴族を厳密に管理している。
例えば領主が勝手に領地をカタにしてお金を借りたり売り飛ばしたりしたら即廃爵。
平穏無事でも毎年王政府の監査官が帳簿を監査する。
貴族の世襲や継承にも厳密な規則があって、男爵以上は婿入りや輿入れには王家の許可が必要だ。
それでも時々貴族が降爵させられたり潰されたのするんだけど。
生存競争はなくならないからなあ。
「つまり問題ないのね?」
「御意」
だったらほっといていいか。
これからはテレジア公爵領なんかには構っていられなくなりそうだし。
「もうない?
なら始めましょう」
髪も乾いたし、私は気合いを入れ直して言った。




