262.ダーク
窓の外を見たら日が傾いていた。
もうすぐ夜だ。
「パーティって夜やるの?」
「はい。
舞踏会型式でございます」
「珍しいわね」
「昼間から始めると延々と続きますよ」
さいですか。
助かった。
ちなみに国王陛下や王太子殿下の場合はまずパレードがあって、お城に戻ってからパーティになるそうだ。
何てハードなんだ。
公爵で良かった。
それでも不安になって家令代理に聞いてみた。
「まさかパレードとかないよね?」
「やりたいのですか?」
「絶対嫌」
「ご安心下さい。
ご自分の領地ではないのでそういったことなどはございません」
それもそうだ。
私は公爵領でこそトップなんだけど、王都においては一貴族でしかない。
王都は国王陛下の領地だからパレードなんかやったら不敬罪になってしまいそう。
「そうでもございませんよ?」
「そう?」
「はい。
国に対して大きな業績を残したり戦争に勝利した立役者でしたらアリです」
ふーん。
英雄とか勇者の凱旋とかね。
私には関係のない話だ。
執務室から私の私室というか居間に戻って一休み。
「ご入浴でございます」
はいはい。
ドレスを剥ぎ取られて風呂桶に放り込まれて身体中を洗われる。
メイドさんが6人くらいよってたかってだった。
気合いが入っているなあ。
ガウンを纏って浴室を出ると、髪を乾かしながらお化粧三昧。
「ご希望はございますか?」
例の、王妃様が譲ってくれたお化粧メイドの人が聞いてくるんだけど、そんなのわかんないしね。
ファッションセンスとか皆無だから。
男爵家の庶子、いやむしろ孤児だった頃からその辺のスキルは進歩していない。
「お任せします」
「お心のままに」
というわけで私は芸術品にされた。
どこといって変わったようには見えないんだけど、ちょっとした陰影や髪の結い方、アイシャドーなんかで人のイメージはがらりと変わる。
着せ替え人形がダークファンタジーのキャラになってしまった。
「凄いわね」
「殿下って何でもお似合いになるけど、人外を演らせたらドハマリするのよね」
「あの目付き。
鳥肌が立つわ」
メイドたちがコソコソ話していた。
聞こえてるよ!
失礼きわまりないけど、貴族から見たらメイドは特別な場合を除いては存在しないことになっている。
だから何か聞こえてもそれはないことになる。
貴族って不便。
でもまあ、言いたいことは判る。
姿見で全身を映してみたら露骨なダークファンタジーアニメのキャラがいた。
だってドレスが暗色のゴスロリなのよ!
何で?
「今回のパーティは、言わば殿下の社交界デビューでございます。
これまでのようなフワフワではインパクトに欠けます」
「いや、別に私は」
「貴族は舐められたら終わりでございます」
言い切った専任侍女の目が据わっていた。
怖っ!
「でも」
「これまでの殿下は王家の庇護下にありました。
応対する貴顕も王家を除けば全員、身分が下です。
ですのでテレジア公爵家当主の印象としては親しみやすさを強調しておりました」
「そうだったんだ」
確かにこれまでの私って小動物的なイメージで売っていたものね。
イメージカラーは髪の毛に合わせてピンクだったり。
身体が小さいからそれがまた似合っていて着せ替え人形的な魅力を表に出していたりして。
「ですが、今回は自主独立を宣言致します。
しかも来賓には複数の他国の王家の方々がおられます。
少しでも油断すれば乗っ取られます」
「そんな大げさな」
専任侍女はため息をついた。
「殿下はお優しい。
ですが、この世界は弱肉強食でございます。
それ相応の力がなければ食い殺されるだけです」




