261.記憶
「「「「お任せ下さいませ」」」」
何で揃うんだろう。
まあいいや。
それからは淡々と進んだ。
侍女見習い、じゃなくて社交侍女の皆さんはこういうことに慣れているらしく、一度聞いたら覚えるそうだ。
しかも今回の要点は貴族じゃなくて他国の王族だ。
最初からある程度の情報を得ているらしい。
「マリアンヌ様は将来的に他国王家との協調により大陸統一を実現致します。
今回はその基礎を築く千載一遇の機会でございますれば」
ルミア様じゃなくてサラーニア家のルミアが口走った。
何それ。
いや、今は気にしない気にしない。
とにかく私のお誕生会を無事に乗り切ることだけとを考えよう。
2時間くらいかかってよその国の姫君たちの情報を脳に叩き込む。
頭の中がグチャグチャなんですが。
「一度、すべてお忘れ下さい」
家令が言った。
「忘れて良いの?」
「はい。
しばらく置いてから復習して頂きます。
その時に覚えたことが重要でございます」
「姫君方の特徴と名前を覚えて頂ければ、あとは私共が」
そういう記憶法もあるのか。
メロディくらいチートだったら全部覚えるのもアリだけど、普通の人というか貴族には不可能だ。
だから大抵の貴族は参謀をそばに置いて対処しているそうだ。
特に王族は普段から数限りない人と会うため、全部覚えるのは絶対無理。
なので外部記憶用の侍従が常に控えている他、右筆や秘書が複数付き従っていて全部記録している。
謁見の時なんかは予めカンペを作って助言を受けつつ乗り切るということで。
「知らなかった」
「身分が上がれば上がるほど、交際範囲が増えますからな。
陛下など一日に3桁の相手と謁見したり面会したりされます。
全部覚えるのはあり得ないかと」
「そうよね」
思わず頷いたら家令は真面目な表情で言った。
「ですが、謁見する方にしてみれば千載一遇のチャンスでございます。
大半の方は人生のクライマックスと言ってもよろしいかと」
「それもそうか」
陛下や王族からしたら目の前を通り過ぎて行く有象無象の一人にしか過ぎないんだけど、本人にとっては一世一代の大舞台だ。
当然、それなりの対応を期待する。
「なるほど」
「はい。
やっとのことで謁見出来たのに自分のことなんか何も知らないとか前回のことも覚えていないことが判ったら失望も甚だしいことになります。
どんなに好意があったとしても、それかバレた時点で憎悪に変わる可能性が」
思い出した。
私の前世の人が読んだ小説にそういう記述があったっけ。
その世界の政治家は投票で選ばれる。
投票って、つまり有権者に選ばれることなんだけど、有権者は人間だから感情に左右される。
つまり好き嫌いで決まってしまう。
だから、立候補者は絶対に嫌われちゃ駄目だ。
嫌われないためにはどうすればいいのかというと、この政治家は自分を重視してくれる人だと思って貰えばいい。
具体的には自分のことをよく知っていて、好意的であると思わせれば良い。
「王族も同じね」
「さようで。
謁見の時、陛下が取るに足らない自分のことをよくご存じだとしたらどう思われるでしょう。
逆にまったく関心がなかったり何もご存じでなかったりしたら。
それと同じでございます」
家令が持って回った言い方をするからややこしかったけど、つまり情報は命だということね。
だから社交侍女の皆さんが私をサポートしてくれると。
「よろしくお願いします」
「「「「お心のままに」」」」
こればっかり。
その後、雑談というかむしろクイズ型式で記憶を確認・強化した。
よし。
何とか王女殿下の方々については覚えた。
「他にもいるんでしょ?」
「あまり欲張ると破裂しますぞ。
とりあえず最重要人物に絞って対応して頂きます」
そうかあ。
私の誕生パーティに来てくれるのはよその王女だけじゃないものね。
ていうか普通に高位貴族もいるし。
そんなものまで覚えようとしたら死ぬ。
「この辺りで」
「はい」




