260.ハーレム
だって謁見に来られたのは大半が王女や皇女だったのよ?
しかもそのほとんどが私の血縁を名乗られた。
ゼリナやハイロンド、ライロケルの王家や皇家は母上や祖母上を通じて私と直接血が繋がっている。
でもそれだけじゃなかった。
2世代のうちに、ゼリナやハイロンド、ライロケルからよその王家に輿入れしたり婿入りしたりした方が結構おられて、当然だけどその方々のご家族も私の親戚ではある。
血が繋がっているとは限らないけど、親族と言っていい。
そういう国々もなぜか私と大体年齢が同じくらいの貴顕を送り込んで来たみたいなのよね。
大半は王女で公爵令嬢や大公息女もおられた。
何のハーレムだよ!
「食が進んでおられません」
控えている専任侍女が淡々と言った。
「何か胸が一杯で」
「これから長丁場になります。
お食事をする暇はございません」
うっ。
そうなのよね。
ただのパーティならともかく名目上は私の誕生会だ。
つまり私は主賓だから、結婚式と同じで並んでいる食べ物を摂る機会はない。
だからここでエネルギー補給をしておかないと空腹で倒れかねない。
「わかってはいるんだけど」
「せめてスープを」
「そうね」
水分取り過ぎるのもトイレが近くなるから拙いんだけど。
いや。
お花摘みという名目で抜け出せるか。
そう思い直して濃いスープを飲んでいるうちに食欲が出てきた。
サンディ、ありがとう!
「それはようございました」
主人の体調管理までやってるのか専任侍女。
まさに専門職。
お給金、どれくらいなんだろう。
まあいいや。
いったん食欲が出たら私は無敵だ。
大食い選手権保持者だし。
それでも時間がないと言われて大急ぎでサンドイッチやケーキをパクついて、腹八分目辺りで止めた。
これ以上は動きが鈍くなる。
「堪能した」
「お心のままに」
衣装部屋に移動して着替える。
「お風呂はいいの?」
「開催前には」
つまり、まだ何かあるらしい。
意外にも着せられたのは簡易型というか、むしろ仕事着的なドレスだった。
そのまま私の執務室に連行される。
家令や家令代理、それに祐筆が何人か待っていた。
「さて」
家令がにんまりと笑った。
「お勉強の時間でございます」
それかよ!
そして、謁見した方々についての詰め込みが始まった。
「シェルパトーレ王女殿下はゼリナ王国セイレオ公爵家より王家に輿入れなされたディーヌ妃の姫君で……」
筆記は許されなかった。
全部覚えろと?
「全部は無理でございましょう。
要点のみ、ご記憶下さい」
「それでいいの?」
「補助を控えさせます」
良かった(泣)。
外部記憶があるってことは、私は索引だけを覚えていればいいと。
「その補助って侍女でしょ?
サンディがいてくれるの?」
私の専任侍女とはいえ、本人の身分は男爵家だ。
王女がうようよしているような場所では場違い過ぎるのでは。
「身分上、難しいかと。
ですので代役をご用意致しました」
「ひょっとしてメロディとか?」
言ったら馬鹿にされた。
「メロディアナ殿下は他国の姫君でございます。
お頼りになるのは難しいかと」
そうよね。
「一時的に侍女見習いを侍女に格上げ致します。
こちらが殿下を常にサポート致します」
家令の合図でドアが開いて淑女たちが入室してきた。
「「「「お久しぶりでございます。
マリアンヌ殿下」」」」
侍女見習い軍団か!
確かにこの方々は高位貴族の令嬢だ。
伯爵家、侯爵家、辺境伯家だったっけ。
身分から言えばテレジア公爵の侍女でもおかしくない。
私より年上というところもいい。
「皆さん。
よろしくお願いします」
一も二もなく屋思わず頭を下げてしまった。
この人たちは何せ頭は切れるし行動力もあるし、度胸は満点。
はっきり言って私なんかよりよっぽど有用な人材だものね。




