258.謁見
「判りました。
ありがとう」
「お心のままに」
随分長い間考えていたような気がするけど実際には数秒だったらしい。
家令代理は真面目な顔に戻って立礼をすると去った。
後ろ姿が准男爵に見えた。
地位が人を作るって本当なのね。
私はまだ公爵になりきれてないけど(泣)。
私の誕生日までは私はやることがないということで日常に戻る。
つまり書類仕事ね。
なぜかメロディもロメルテシア様も近寄ってこなかった。
色々動いているみたい。
ていうか、何か私には秘密になっているらしくて誰も教えてくれない。
サプライズで何かするのかな。
別にいいけど。
忙しさに忘れている内に私の誕生日になったらしい。
朝起きると離宮が何となくざわついていた。
というよりは浮き足立っていた。
嬉しくないなあ。
前々から気づいていたんだけど、私は保守的な人間だ。
変化を嫌うというか、何事もコツコツとやり続ける性格で、常に新しい事に挑戦し続けるとかいった事は苦手だ。
なのにこれまで16年間生きてきて波瀾万丈な人生に翻弄され続けてきたのよね。
公爵にされて、毎日せっせと書類にサインするだけの生活は安定していて割と気に入っていたんだけど。
静寂が破られてしまった。
「おはようございます」
いつも元気な専任メイドがカーテンを開けながら言った。
光がどっと押し寄せて来る。
快晴だ。
「おはよう」
「入浴の準備が出来ております」
「判った」
私の生活はグレースに管理されている。
まだ眠いから、とか朝風呂はちょっと、とか言えそうにもない雰囲気なのよね。
貴族なんか操り人形だ。
グレース配下のメイドさんたちがよってたかって私をお風呂に連行し、服を剥ぎ取られて湯船に放り込まれた。
これもルーティンなんだけど、今日はいつもより念入りに磨かれた。
お風呂から出て髪を乾かしていると専任侍女が来た。
「朝食後、午前中は謁見が入っております」
「この忙しい時に?」
「パーティ参加者の方々でございます。
いきなり初対面で参加するのは不都合ですので」
あー、そうか。
パーティ会場でお互いに紹介しあっていたりしたら時間がかかってしょうがない。
だから初対面を謁見で済ませておく訳ね。
ていうか初対面の人ってそんなにいるの?
「諸外国より来訪された方々が」
うっ。
外国からも来るって忘れていた。
「そんなに来てるの?」
「それほどでもありません。
せいぜい十数人というところでしょうか」
多いよ!
「そんなに来て大丈夫なの?」
「問題ございません。
この離宮に宿泊されるのはご本人と側近、それに下働き1名に限らせて頂きました。
残りは分散して待機して頂きます」
何でもないことみたいに言うサンディ。
「え?
十数人しか来て無いのよね?」
「貴顕の方だけでそのくらいでございます。
それぞれお付きの方々を伴っていらっしゃいますので、その方達を含めると20倍くらいは」
そうでした(泣)。
貴顕、それも王族クラスが外国に行く場合、ミニ宮廷的な陣容がついてくる。
側近はもちろん護衛騎士や侍女に下僕、執事に当たる世話係まで。
王族が一人動いたら数十人が従うのが普通だ。
テレジア公爵が自分の領地に行った時ですら馬車が何台必要だったか。
増してその方達にとってはテレジアは外国だ。
友好国だから危険があるとはいえないが、それでも万一に備えて最低限の陣容を構築しているはずだ。
「……まあいいわ。
さっさと始めましょう」
急がないと昼食を摂る暇もなくなりそう。
そして私は謁見用のテレジア公爵色のドレスを纏い、髪にティアラモドキの髪飾りをつけてお仕事に励むのだった。
幸いにして今日は書類仕事はないらしかった。
その分、後が大変かもしれないけど。




