251.君臨
ということで、早速王妃様主催のパーティに出ることにした。
もちろん招待状に「出ます」(意訳)とお返事してからだけど。
受け取った王家はパニックとまではいかないけどちょっとした騒ぎになったらしい。
後で聞いたら、そもそもそういうパーティは王家が貴族の奥方様を集めてもてなすというか慰労するためのものだということだった。
もてなされる奥方様は基本的に侯爵家以下の貴族家だ。
公爵家からは来ない。
派閥の頂点だったりどこかに所属していたりしないから。
つまり、その王妃様主催のパーティに出るのは貴族の派閥に何らかの形で関わっている奥方だけだったのよね。
マウントの取り合いというよりは勢力の把握と確認のためというか。
同時に王妃様や王太子妃殿下がテレジアの貴族界の構図を把握したり、何か拙いことになっていたらその原因を確認して対処するための集まりだった。
だからテレジア公爵が出ると言ったらパニック……にはならなかったらしいけど、対処するための包囲網を敷く必要がある程度には驚かれたと。
私はそんなことは知らないからテレジア公爵の色を染め抜いたドレスを纏い、小さいティアラに見えなくもない髪飾りをつけて参加したんだけど。
失敗した。
だって私、「王家の瞳」持ちなのよ。
王妃様や王太子妃殿下はもちろん貴族家から王家に輿入れしてきている。
つまり王家出身ではない。
私の祖父上がやらかしたせいで、テレジア王家の嫁は公爵家から娶るという伝統が崩れてしまったため、お二人とも確か侯爵家の出だったはずだ。
なのでもちろん「王家の瞳」は受け継いでいない。
その他の参加者にもいなかった。
するとどうなるか。
パーティ参加者の中でただ一人、私だけがテレジア王家の者みたいに見えてしまった。
しかも私はティアラみたいな髪飾りをつけていた。
どうみても貴族の奥方の集まりに王女が出ている状況だ。
実は、それだけではなかった。
私がパーティに出ることを聞きつけたロメルテシア様とメロディが、直前になって「私もお供してよろしいでしょうか」とか言って割り込んできたのよ。
もちろんお二人には招待状が来てなかったんだけど、他国のとはいえ王家の方が参加したいと言い出したら断れない。
好き嫌いとかじゃなくて、もう国同士のメンツの問題になってしまう。
テレジア公爵が慌ててその旨を王家に通知して何とか了承を得たんだけど、告知する時間がなかったためパーティの他の参加者には寝耳に水だったらしい。
テレジア公爵家の色を纏い、ティアラめいた髪飾りをつけ、「王家の瞳」を晒した私の両側に侍るミストアの姫君とシルデリアの第一王女がパーティ会場に踏み入れると、声にならない悲鳴が響き渡った。
いやホント、桁外れのマウントだった。
ロメルテシア様は他にはちょっといないくらい清楚で優雅で嫋やかで高貴な姫君だ。
白い肌に長い黒髪を流していて、人というよりは月の女神のような人外じみた美しさを誇る。
メロディは反対に「王家の者」というイメージを具現化したような凄まじい威圧を発散していて、私ですら真正面から相対すると片膝を突きそうになる。
ミステアの姫君とは正反対で有りながら同格と言っていい鮮烈な美貌が目に痛いほどだ。
私の前世の人が読んでいた軽小説に出てくる帝国とかの女帝みたいなのよ。
そんな二人がテレジア公爵に侍っているように見えるって(泣)。
「……ようこそいらした。
マリアンヌ殿」
王妃様すら一瞬、言いよどんだくらいの衝撃だったらしい。
王妃様がそれきり黙ってしまったので、私は仕方なく言った。
「ご紹介させて頂きます。
こちらはミステア神聖国使徒のロメルテシア様であられます」
「テレジア王国王妃殿下、および王太子妃殿下、それにテレジアの屋台骨を支える皆様にご挨拶申し上げます。
ロメルテシアと申します」
優雅に言って綺麗に礼をとるミステアの姫君。
そして続けておっしゃった。
「マリアンヌ様にお仕えさせて頂いております。
今後とも、よろしくお願い申し上げます」
おい!
何てことを言うんだよ!
だけどよその国の姫君のお言葉は取り消せない。
しょうがない。
私は聞かなかったことにして次に移った。
「こちらサラナ連合王国シルデリア王家第一王女のメロディアナ殿下であられます」
「メロディアナである。
よろしくお願いする」
おお、王者の挨拶だ。
「私もロメルテシア殿と同様にマリアンヌ殿に私淑している。
学院の研究生としてマリアンヌ殿の研究室に所属する予定である。
よしなに」
メロディ(泣)。
アンタもか。
そこまでして私を虐めたいの?
泣きたい。




