249.燃える
考えをまとめるために口に出して言ってみたら専任侍女が恭しく頭を下げた。
「ご慧眼でございます」
「さすがはマリアンヌ様!
やはり古き青き血の」
クレースのそれ、久しぶりに聞いたな。
最近あまり言わなくなったので不思議に思って聞いたら「公爵殿下の専任メイドたるものが、みだりにそのような軽薄な事を」とかいう話だったので安心していたんだけど。
駄目だったか(泣)。
まあいい。
私は黙って書類仕事に戻るのだった。
だんだんと冬が深まっていって、私のお部屋でも暖炉に火が入るようになった。
お城って一見、堅固なように見えるけど、実際には隙間だらけで外が寒い時はお部屋の中も寒い。
なので主要なお部屋には必ず暖炉がついている。
お部屋の中で火を燃やすわけで、私の前世の人の知識によれば密閉したお部屋でそんなことをしたらいずれ二酸化炭素中毒で死ぬ。
一酸化炭素だったっけ?
どっちでもいいけど、そんな知識が無くても長期間部屋を締め切って火を炊いたら死ぬという知識は当たり前に広まっているわけで、だから暖炉には煙突がついている他に、空気取り入れ口が別にあったりして。
そのために冷たい空気が入ってきて寒いという矛盾した状況だ。
だから冬期はベッドのマットレスがふかふかのものに変わるし、毛布も追加されて暖かい。
そういえばミルガスト家タウンハウスの使用人用宿舎にいた頃はどうしてたんだっけ。
今思い出そうとしても、特に変わったことはしてなかったような。
つまり夏も冬も同じ装備で乗り切っていたわけか。
いや、孤児院ではそんなの当たり前だったし、サエラ男爵家も個室ではあるけど似たようなものだったから何とも思ってなかったんだけどね。
今は普通に寒い。
私も軟弱になったなあ。
「使用人の皆さんはどうしてるの?」
専任メイドに聞いてみた。
「大部屋には暖炉がございますよ。
上級使用人には追加の寝具が支給されます」
「つまり暖炉はないと」
「燃料費が馬鹿になりませんので」
なるほど。
専任侍女や専任メイドクラスの上級使用人のお部屋は個室なので、暑さ寒さにはそれぞれ自力で対処するそうだ。
具体的には厚手のマットレスや毛布、寝間着などが支給される。
もちろん無制限ではなくて申請して認められればだけど。
断られたら自分で購入するそうだ。
「断られる事もあるの?」
「余分に受け取って売り飛ばしたり、他人に与えて恩を売るような輩も時々いますので。
もちろん当テレジア公爵家にはそのような不心得者は皆無でございます」
まあ、公爵家だもんね。
そんなチンケな誤魔化しをやってバレて首になったりしたら泣くに泣けない。
「グレースは大丈夫?」
ちょっと心配になって聞いてみたらちょっと得意げに言われた。
「マリアンヌ様のお世話が出来るというだけで、私の身体は常に燃えております。
寒さなど感じません」
それってヤバくない?
熱があるのでは。
「いえ?
ミルガスト家に居た頃にはマリアンヌ様はもっと寒い中でも健気に努力しておられたのだ、と思えば」
重傷だ(泣)。
もうどうしようもないので忘れる事にする。




