247.婿入り輿入れ
「接待でございますか」
朝早くから呼びつけられて、すぐ側に建っているお城に駆けつけてみたら謁見室じゃなくて陛下の執務室に通されて命じられた。
「そうだ。
ゼリナの王太子殿下が訪問すると連絡があった。
テレジアの学院を視察したいそうだ」
「いきなりですね」
「前にテレジアの王太子が行っただろう。
その時に色々話したようだ」
さいですか。
面倒くさいなあ。
王太子殿下が引き金を引いたのなら後始末も王家でつければいいのに。
「テレジアのお相手が公爵では失礼なのでは」
「先方のご希望だそうだ。
ゼリナの王太子はテレジア公爵の近い親類であろう」
言われてしまった。
そりゃもちろん、長く続いた王家同士はいつかどこかでお互いに婿入り輿入れしているから、何らかの形で血が繋がっていることは多いけど。
ゼリナ王国の国王はしばらく前に代替わりしたはずだ。
前国王陛下は私の祖母上の兄上だから、今のゼリナ国王は私の母上の叔父だか伯父だかに当たる。
つまりその子息である王太子殿下って私の……ええと何に当たるんだろう。
本当に面倒くさい(泣)。
「承知致しました」
「今のところゼリナとは特に問題はない。
テレジアとしてはこの関係を維持したいからな。
よろしく頼む」
「御意」
国王陛下直々に命じられてはどうしようもない。
勅命って奴?
いや国王陛下の命令だから王命だ。
勅命は皇帝陛下の命令のことだった。
しかし接待か。
何をすればいいんだろう。
いやいや、こんな時のための侍女見習いの皆さんではないか。
私は離宮に戻ってすぐに侍女見習いを呼んで貰った。
皆さん忙しいから集まるかどうか不安だったけど、全員があっさり集合してくれた。
「参上致しました」
「忙しいところをごめんなさい」
「殿下のご命令は何より優先されます故、お気になさらず」
相変わらずこの人たちの価値観はよく判らない。
雇用主だから?
無給のはずだけど。
まあいいか。
早速、陛下の王命を伝える。
「ゼリナの王太子殿下でございますか」
「はっきりしないのだけれど、学院の視察をなさりたいと」
「むしろ殿下と知己を得たいのではないかと愚考致します」
グループの頭脳たるルミア様が言った。
陛下の懐刀のご令嬢だからね。
裏の事情まで知っていそう。
「私と?」
「ここ数年で殿下が成し遂げた偉業。
更に、今後どこまで伸びるか判らない成長株でございます。
増してゼリナの王太子殿下は殿下のご親族。
むしろ今まで接近してこなかった方が不思議であると」
何それ。
私の偉業って歌劇のこと?
「あんなのは皆様の成果なのに」
「私共の助力は確かに必要ではあったと愚考致しますが、それもこれも殿下がおられなければ存在していませんでした。
その意味では殿下の『力』と言えるかと」
「しかもでございます」
ライラ様が興奮気味に言った。
「殿下に惹かれて続々と貴顕が集まって来ておられます。
ハイロンドとライロケルからも近々留学生がいらっしゃると伺いましたし、ミストアの使徒様やシルデリアの第一王女殿下も」
いや、あれは。
そういえばまだ紹介して無かったっけ。
何で知っているのかって、当たり前か。
この四人組は情報収集のプロだもんね。
「お話は変わりますが、皆様はまだロメルテシア様とは謁見されておりませんよね?」
聞いてみた。
メロディとは非公式にとはいえもう知り合っていたっけ。
「……私共のようなものが僭越かと」
途端に口が重くなる皆様。
まあ、たかだか伯爵家や侯爵家の令嬢がミストアの神託宮の姫君に謁見してどうするの、ということはありそう。
だけど、多分私に関わっている以上は避けて通れないのよね。




