243.ツンデレは存在しない
まあいい。
メロディがあちこちに挨拶回りをしたり、学院の入試を受けたり(ほぼ満点だったそうな)、学院本科の生徒として通学するための準備をしたりしているうちに冬になった。
ちなみに他国の王女が生徒として学院に通うことについては学院上層部はもとより王政府も難色を示したんだけど、私の母上の前例があるということで押し通したそうだ。
メロディはとりあえずシルデリアの子爵令嬢という建前になった。
これなら無理なく講座に所属出来るし下位貴族令嬢だから学院に通える。
もっともメロディが何かの講座にお邪魔して教授と話すと例外なくメダルをやるから助手や共同研究者になってくれと懇願されるらしい。
本人はげっそりしていたけど。
家令によれば、ハイロンドとライロケルからいよいよ人が来るという先触れがきたらしくて、離宮のみならず王宮も騒がしい。
どうも両国から王家の者が来るという意図が正しく伝わってないらしくて、嫁探しや婿取りだと誤解されているそうだ。
「王家は敢えて誤解させたままだそうでございます」
「悪辣ね」
国力で言えば両国ともテレジアとほぼ同等。
つまり、一応は列強に入る。
しかもついこないだまで皇妃や王太后がテレジア国内でブイブイ言わせていたのよね。
あれって嫁取りの視察だったのではないという憶測が飛び交っているそうだ。
「違うの?」
「違うでしょうな」
家令がこっそり教えてくれた。
それはそうか。
少なくとも嫁取りじゃないよね。
ほっといたら面倒くさい事になりそうなので、とりあえず出来ることからということで、適当な時期にロメルテシア様とメロディを引き合わせてみた。
具体的には二人を招いてお茶会を開いたんだけど。
テラスは寒いので、離宮の奥深くにある居間での開催になった。
私を含めて3人とも貴顕だけど、身分で言えば私が公爵、メロディは王女、そしてロメルテシア様はよく判らないけど他国で言えばやっぱり王女に相当するらしい。
つまり私が一番の下っ端だ(泣)。
それでも私が主催者だから仕切っていいのだ。
ロメルテシア様はミステア人の貴顕に特有な白い肌で艶やかな黒髪、深い緑色の瞳の美少女だ。
礼儀は完璧。
本人はあまり気にしていないみたいだけど、その容姿と楚々とした態度だけで大抵の相手は凌駕出来る。
一方、メロディは掛け値無しの美女だ。
金と銀が入り混じった長い髪が圧倒的で、美貌はもちろんスタイルも完璧。
それだけじゃなしに、無意識だろうけどもの凄い威圧を常時まき散らしている。
こっちも殿方はもちろん同性でも圧倒されて平伏したくなりそう。
そんなお二人がまともに相対するんだから修羅場になりかねない。
と心配していたんだけど、別の意味で修羅場になってしまった。
「マリアンヌ様は私が仕える御方でございます」
「マリアンヌは私の盟友、いやむしろ目上だからな」
いやいや、二人とも何張り合ってるの?
私なんか男爵の庶子で元孤児だよ?
「ということは、メロディアナ様は私の同輩でございますね」
「そうだな。
よろしく」
何二人で納得しあってるのよ!
このままでは拙い。
思いあまってぶちまけてしまった。
メロディも巫女であると。
スマホもYouTubeもBLもご存じだ。
するとロメルテシア様は「さようでございますか」と頷いてからメロディに聞いた。
「ツーンデェレをご存じですか?」
ツンデレかよ!
まだキーワードがあったとは。
「知ってるよ。
でもそれ、都市伝説みたいなものだから。
実際には存在しなかったよ」
メロディも真面目に答えるんじゃない!
するとロメルテシア様はにっこりと笑った。
「お見事でございます。
メロディアナ様も巫女でございますね」
「巫女の概念がだんだん怪しくなってきたけど、そうみたいだね」
メロディは悠々と言ってお茶を飲んだ。
やっぱこの人も変なのでは。
ロメルテシア様も澄ましてお茶を飲んでいる。
あれ?
「ロメルテシア様?」
「どうか呼び捨てにして頂きたく。
何でございましょう」
「いや、メロディも巫女なのよね?
どうするの?」




