240.諜報員
気を取り直して続ける。
「巫女捜しって神聖宮のお仕事なのよね」
「そうでございますね。
具体的には、神聖庁のとある部署が常時情報を収集しております。
巫女はあらゆる場所、あらゆる階層に降臨されますので、ミステアのみならず世界各国に配置された諜報員が絶えず聞き耳を立てております」
怖っ。
そんなのがいるんだ。
と思ったら何の事はない、教会のことだった。
ミステア神聖教の教会は大陸中の国にあるし、奉仕活動のせいもあって信用度は抜群だ。
そんなことして何を狙っているんだろうと前から思っていたけど、そういう理由だったのか。
「巫女捜しってどうやるの?」
「集まってくる情報を神聖宮の下部組織が分析します。
その中で、ひょっとしたらというものがございましたらより詳しい情報を集め」
「結構手間と時間がかかりそうね」
「ミステアの存在意義に関することですので手は抜けません。
ある程度信憑性が高いと判断されると公使が調査に赴きます」
あれか。
あの時点でもう、私は疑われていたと。
まあ桃髪だからなあ。
露骨に巫女臭いものね。
「それで」
「公使は現地で可能な限りの調査を行い、その情報を神託宮に上げます。
巫女の可能性が高いと判断されると使徒がミステアの特使に任命されて最終確認に赴くことになります」
それでロメルテシア様がお越しになられたと。
巫女かどうかを最終的に判断するのが使徒のお役目か。
「使徒が巫女だと判断した場合は?」
「ただちにその旨を本国の神聖庁に報告し、神託宮の封印を解きます。
同時に使徒全員が交代で巫女にお仕えする体制を」
え?
「使徒ってロメルテシア様だけじゃないの?」
「『様』は余計でございます。
呼び捨てでお願い致します。
……はい。
使徒の定数は不定でございますが、複数おります。
現在は私を含めて5人でございますね」
そんなにいるのか!
「その人達がみんな離宮に来るの?」
「いずれは。
本国にも拠点を置く必要がございますので、全員が集まることはございませんが」
使徒が大量に押し寄せて来るのか(泣)。
「本来ならマリアンヌ様をミステアにお招きするのが至当でございますが、お立場上難しいと思われます。
なので、申し訳ございませんが神託宮をこの離宮に設置したく」
平然とのたまう使徒様。
もう決定事項臭いな。
しょうがない。
「許可します。
ただしテレジア王政府と王家にはそちらからお話を通して下さい」
「当然でございます」
多分、通るだろうな。
何せ国力はともかく国際的に信用度抜群のミステアだ。
断ったらテレジアにダメージが大きいし、許可すればミステアの最高権力がテレジアの風下に立ったと見なせる。
しかもこれはある意味テレジア公爵家の問題であって、テレジア王家や王政府には関係ないからね。
何か不祥事があったらテレジア公爵のせいなんですよ、で押し通せる。
何てこった。
まあ仕方がないか。
「ならば正式に許可しますので」
「お心のままに」
なし崩し的にミステアの神託宮とやらが引っ越してくる事が決まってしまった。
うちの離宮、益々訳がわからなくなっていくなあ。
今でもハイロンドとライロケルの連絡事務所が同居しているのに。
幸いにしてまだお部屋はたっぷり空いているから争奪戦は起こらずに済みそうだけど。
でも冬になったら両国から王家の人が来る予定なのよね。
やれやれ。




