234.転生者じゃない
あー。
なるほど。
この人、日本語は判らないと。
なのにスマホだのYouTubeだのBLだのの単語は知っている。
つまり転生者自身じゃない。
転生者は別にいて、発音だけを又聞きしたかコピーしたかどうかしたわけね。
「あ、はい。
判りました。
知ってますよ、スマホもYouTubeもBLも」
最後のには関心ないですが、と付け加える。
ちなみにテレジア語だ。
ミステア神聖語だと細かいニュアンスが伝わりそうにもないから。
変に誤解されてはたまらない。
BL好きとか(汗)。
「!
やはり……でございますか」
「スマホは手の平サイズの、えーと万能端末ですよね。
YouTubeは動いて音が出る絵物語というか。
そしてBLは殿方同士の」
「それで充分でございます!」
焦ったように叫ぶロメルテシア様。
BLの説明は聞きたくなさそうだ。
結構葛藤があるのかもしれない。
そう、女の子が全員アレが好きだとは限らない。
私も嫌いというわけでもないけど好きでもない。
というよりは関心がないだけだけど。
女の子同士?
もっと関心ないよ。
私が内心で色々言い訳している間にロメルテシア様は心を落ち着かせたようだった。
何度か深呼吸していた。
そして。
「改めてご無礼をお詫び致します。
いきなり申し訳ございませんでした」
「別にいいですけど。
ところで、今のって」
引っ張られて女子高生が出てしまった。
「はい。
確認致しました。
マリアンヌ様は巫女でございますね?」
確信を持って言い切るロメルテシア様。
まあそうね。
「巫女」が何を意味するのか不明だけど大体は判る。
転生者なんだろうな。
それも21世紀日本の女子高生限定臭い。
スマホだのYouTubeだのは、確か21世紀になってからのブツだしね。
BLはもっと前からあった気がするけど、前の2つと合わせると時代が確定する。
何というか、そんなもので時代が確定されてしまうのって何か情けないけど(泣)。
「あー。
巫女というとミステア神聖国の、でございますよね」
「はい。
厳密に言えば神託宮の、でございますが」
「そして巫女ならば、先ほどの単語を理解出来ると」
「そう伝えられております」
ロメルテシア様は感極まったみたいに両手を胸に当てた。
「私も初めてでございます。
というよりは、記録に残っている限りではございますが、巫女はミステアの歴史上でも数度しか降臨されておられません。
私の代でお目にかかれるとは望外の幸運でございます」
さいですか。
巫女って歴史上、何度か出てきたことがあったらしい。
他の国にはまったく伝わっていないということは、ミストアだけの伝承なのかもしれないな。
あるいは出現しても歴史に埋もれたりあっさり始末されたりしただけかも。
「申し訳ありません。
私は寡聞にして」
「当然でございます。
これまでの巫女の方々も、意図してというよりは偶発的に降臨されたとのことでございました」
まあ、それはそうか。
誰が好き好んで転生したりするか。
しかも、どうも転移じゃなくて転生限定だ。
だって21世紀日本には桃髪の女子高生なんかいなかったものね。
ていうかコスプレしていたらいたかもしれないけど、転移してそのままのはずがないし。
私は気を取り直して言った。
「とりあえず確認は済んだのでございますか」
「あ、はい。
ミストア神聖国神託宮が使徒、ロメルテシアが確認致しました。
マリアンヌ・テレジア様はまごうことなき巫女であられます」
いや、そういうことはいいから。
「では、とりあえず密談は切り上げませんか。
疑われます。
これ以上のお話は改めて、ということで」
「お心のままに」
やっぱりそう言うのね。
臣下が王族に従う時の定例文だけど、テレジア以外でもそうなのか。
いやテレジア語だからかな。
私が雑念にふけっている間にロメルテシア様は側近を呼び戻して私に一礼して去って行ってしまった。
引き際が鮮やかだなあ。
結構出来る人なのかもしれない。
やれやれ、終わったと思ったけど甘かった。
「これ以上は次の機会に」というような私の話を真に受けたロメルテシア様が、王政府に要請して使節団ごと離宮に移ってきてしまったんだよ。
元々離宮にはミステアの分遣隊が居座っていたので、その辺りのお部屋をいくつか占拠された。
抗議しようとしたら王政府から哀願されてなし崩し的に決まってしまった。
「このような事態はテレジア公爵家が対処してくださると」
元老院の決定だと言って押してくる外務省と宰相府。
マジで切れるぞ?
まあ仕方がない。
それに私もミストアの巫女とやらに興味がないこともないからね。
ていうかほっといても押し寄せて来そうで、だったら先手を打って取り込んだ方がまだマシだ。




