231.代表
「メロディは大丈夫なの?」
聞いてみた。
「私はそんな野心がないって表明してるから。
今ではみんな諦めている」
「今では?」
「最初は酷かったのよ。
ほら、私って前世持ちな上にこの身体って結構なチートだから。
調子に乗って色々やらかしたら周り中がその気になっちゃって」
ああ、それね。
シルデリアがここ数年で急速に力を付けてきているという話は聞いている。
次々に打ち出す政策が全部どハマりして、どんどん国力を上げているらしい。
その原動力がシルデリアの第一王女であるというような噂も流れてきている。
「何をやったの?」
「特別な事は何も。
ただ、前世で知っている政策をちょっとアレンジして提案しただけ」
知識チートという奴か。
「そんな知識あったんだ」
「ないよ。
ちょっと頭の良い人なら思いつく程度のことだけ。
でも、そういう人は身分や地位がないから何か言っても無視されてしまうのよね。
逆に現時点で立場がある人は、万一失敗したらその立場を失いかねないから思いついても何も言わない」
なるほど。
「だから王女であるメロディが言えば、と。
でもそういう人ってメロディだけじゃないのでは?」
するとメロディは肩を竦めた。
「生まれた時から王子とか王女だったら、そもそもそんな下々の事なんか知らないからね。
成人するまで王宮から出ないから世間知らずもいいところで」
「ああ、それはそうかも」
確かに王家だけじゃなくて高位の貴族家でも、子弟は大切に育てられる。
ある程度育つまではお屋敷から出ないし、外出するときは大量の護衛に囲まれる。
世間知らずになるのが当たり前だ。
なぜそんなことになるのかというと、フラフラ出歩いていたらあっという間に襲われるから。
実を言えばそれは大人になっても似たようなもので、どこに行くにも護衛やお付きが同行する。
そんな人に下々のことが判るはずがない。
「確かに」
「私があれこれ言うのも不自然なんだけどね。
でも私は地方都市で育ったし、神童っていう噂もあったから何とか納得して貰えた。
でなければ悪魔憑きとかにされていたかも」
怖っ。
そういうリスクもあるのか。
「私もあんまり変な事を言わない方がいいかな」
呟いたら否定された。
「貴方は大丈夫よ。
既に雌虎なんだし」
「止めてよ!
それ、孤児院時代の黒歴史なんだから」
「もう定着しちゃってるわよ?」
何てことを。
やっぱり血まみれのドレスで舞踏会に乱入したのは拙すぎたか。
「まあ、あまり気にしない事ね」
いい加減なシルデリア第一王女の励まし? を受けた私は忘れる事にした。
結局、色々話した割には何も決まらないで終わってしまった。
なし崩しに解散して別れてすぐに就寝したんだけど。
数日後、メロディはあっけなく旅だっていった。
もともと諸国漫遊? の途中でテレジアに立ち寄っただけだったらしい。
テレジアの王太子夫妻もこないだ駆け足で周りの国を回ってきたそうで、そういった外遊はよくあることなのだそうだ。
「戴冠する前に顔見せするようなものですな」
家令に聞いてみたらあっさり教えてくれた。
「いざ至尊の立場に立ってしまうと、おいそれとは動けなくなります。
その前に知見を広めると同時に他国の有力な方々と直接お目にかかって名前と顔を売り、コネを作るということかと」
「メロディもそうなの?」
「あの方は型破りでございますからな。
戴冠の予定はないと伺いましたが、いずれはシルデリアのみならずサラナ連合王国内どころか国際的にも重きを成すことはあまりにも明らかでございます」
家令が言うには国内の至尊の方はもちろん国王や皇帝なんだけど、国際社会においてはむしろその配偶者や片腕が幅を利かせることが多いのだそうだ。
なぜかというと国王は国から動けないから。
いざとなったら自ら外国に飛んでいったりあちこち駆け回ったり出来る立場の人が外交の分野では実質的な力を持つらしい。
「すると私の母上や祖母上も」
「はい。
あの方々こそ天職というべきでしょうな」
そういうことか。
王太后や皇妃って支配者の配偶者というだけじゃなくて、国際社会においては国の代表を務めるに足る立場らしい。
名代って奴?
確かに国王の正室だったら国王と同じくらいの権威はありそうだよね。
「まあ、すべての王妃殿下や皇太后殿下がそうとは限りませんが。
人には向き不向きがございますので」
家令の言う事はよく判る。
私の母上や祖母上ってやっぱり規格外なんだろう。
「その血を受け継ぐ殿下も」
専任メイドが何か言ってるけど聞こえない。
まあいいや。
メロディが去ると私の日常はまた単調な繰り返しに戻った。
やっぱり寂しいな。
同じ日本の女子高生という前世を持つメロディは何物にも代え難い同士というか、仲間だった。
話が通じるいうかツーカーというか。
今度、私から会いに行こうか。




