223.区別
「シルデリアでは貴族家の勢力が強くて、しかもお互いに権力争いをしていますから。
こんな所で降りろと言ったら猛反発を食らいます」
メロディも苦労しているんだなあ。
それにしてもテレジア王立貴族学院、やっぱり異端だったみたい。
自分で通ってみて思ったんだけど、面倒くさいように見えて実は極端に合理化されているのよね。
無駄を徹底的に省いて必要な部分だけを残したというか。
学院の目的は貴族の教育だから、それに関係ない部分はすっぱり切り捨てる。
というか最初から作らない。
私の前世の人の社会では、学生が学校に進学すると入学式とか始業式とかの儀式があって、更に学年やクラスごとにもイベントがある。
更に学校全体で体育祭とか学園祭とか、みんなで一緒にやろうよ、というような目的の催しがあるんだけど。
テレジア王立貴族学院にはそういうものは一切ない。
貴族個人の教育に関係ないから。
私の前世の人が通ったという「学校」には授業時間外に学生が自主的に行うサークル活動なんかもあるけど、学院にそんなものはない。
卒業という制度がないのも必要ないからだ。
貴族は自分や周囲の人が「もういい」と思ったら勝手に辞めることが出来る。
もちろん修了に必要なメダルを頂いていなければ貴族界では相手にされないけど。
徹頭徹尾、ただ学生を一人前の貴族にするためだけに存在しているのよね。
並んで歩きながらそういったことをお話ししたらメロディは頷いた。
「さすがは教育先進国でございます。
貴族の教育という一点に絞って成立しているのですね」
「いやまあ、基礎教育の場ではそうなのですが、実は」
説明しかけた時に玄関に着いたので入ろうとしたら衛兵に止められた。
そういえば一応、衛兵が配置されているんだった。
普通はスルーして通り抜けるので忘れていた。
でも今は大名行列だからなあ。
「テレジア公爵、およびシルデリア王国第一王女殿下である。
本日は学院の視察を行う」
テレジア公爵家の護衛騎士の人が堂々と述べた。
ベテランの近衛騎士だ。
テレジア公爵が外出するときには漏れなくついてくる。
それだけじゃなくて、何かあったら私の名代として話したり交渉したりもすることになっているのよね。
今回は私がシルデリアの王女殿下をご案内して学院を視察する、という連絡が事前に行っているはず。
「少々お待ちください」
衛兵の一人が引っ込んだと思ったら1分もたたないうちに戻って来た。
「確認した。
念のために視察に同行する方を述べて頂きたい」
なるほど。
それは当然かも。
「侍女2名、使用人2名、護衛騎士4名である」
「……確認した。
どうぞお通りください」
学院の衛兵がどいてくれたので、私たちはぞろぞろと玄関をくぐった。
あいかわらず廊下が狭い。
人が3人並ぶと反対方向から来た人が通れないほどだ。
「これは?」
「元は砦だったそうです。
そのまま利用しているので」
「なるほど。
徹底的に費用を切り詰めたと」
メロディが頷いていた。
シルデリアの学園は違うのかも。
建物にお金を掛けすぎたとか?
まあいいけど。
「殿下。
ショールはお外しください」
専任侍女が囁いてきた。
しまった。
ついいつもの癖で下位貴族令嬢用のショールを纏ったままだった。
今の私はとても下位貴族令嬢とは言えないものね。
ていうか令嬢ですらない。
公爵だ(泣)。
「これを」
ショールを外してサンディに渡すと、そのまま後方に運ばれていった。
捨てられるんじゃないよね?
あのショールは気に入っていたのに。
だって私が学院に来て努力して自力で本科への編入を勝ち取った記念の物だし。
「捨てないでよ?」
「お心のままに」
何でもそういっておけばいいと思ってない?
メロディが今の寸劇について聞いてきたので教えてあげる。
「なるほど。
身分によって服装が違うと」
「というよりは学生を区別しています。
下位貴族と高位貴族、および殿方と淑女では学ぶ内容が違いますので」
「確かに。
これは有益な視点ですね」
メロディに感心されてしまった。
当然だと思うけど。
「シルデリアの学園は違うのですか」
「建前上は学園内では身分がないことになっています。
なので平民と王族貴族が同じ内容を学んだりもします。
実際には明白な区別があるのですが」
私の前世の人が読んでいた乙女ゲーム小説そのままだな。
まあ、確かにその方が教育する側にとっては楽なんだけどね。
分けたりしたら両方を別々に教育しなければならないし。
そもそも高位貴族の子弟は学生として登録はしていてもほぼ通学しないとしたら、わざわざ区別する必要はないかも。
でも異端の高位貴族がいたりしたら秩序が崩壊しそう。




