221.息抜き
「メロディアナ・ローレル・シルデリア殿下。
サラナ連合王国シルデリア王家第一王女のお立場におられます。
ですが、その肩書きより遙かに重要な方だという評判でございます」
そんなに?
「シルデリアの第一王女だって凄いと思うけど」
「ここ数年のことでございますが、シルデリアというよりはサラナ連合王国の国力が目立って伸びております。
政治的にも経済的にも、軍事的にもです。
その原動力がメロディアナ殿下だという噂が」
何それ。
メロディってホンマモンのチートキャラだったの?
「王女なのに?」
「メロディアナ様は幼少の頃よりあらゆる面で天才的な才能を発揮されてこられたと。
訳あって王宮に上がるのは成人してからになったそうでございますが、いったん表舞台に上るや否や、王族貴族王政府の役人を問わずに魅了したと。
もちろん色恋沙汰ではなく、その知識や見識、人間的な魅力によって」
メロディ。
あんた、容赦ないね(汗)。
乙女ゲームの約束なんか吹っ飛ばしてやりまくったな。
いや恋愛じゃなくて国力増強の方面で。
「そんなに凄いの」
「はい。
シルデリアの重要な政策には必ず助言者の形で関わっておられると。
そのご意見は予言じみているほど正確で、シルデリアはわずか数年で国際社会における立場を強化しました。
今ではハイロンドやライロケルを凌駕するほどの影響力があります」
ほう。
私の母上や祖母上に対抗出来るくらいか。
役者が違うよね。
私なんか未だに母上や祖母上の手の平の上なのに。
ああ、それでか。
公爵にされる前にシルデリア語も学ばされたけど、そういう理由か。
今後は避けて通れない相手だとテレジア王政府も考えていたんだろうな。
増して私は陛下から渉外担当に任命された身だ。
いやいやいや。
母上や祖母上に加えてメロディまで相手にしろと?
無理ゲー過ぎるでしょう!
私は絶望しながらすぐに寝入ったのだった。
そして起きるといつものように気にならなくなっていた。
後の事は考えない性格だから。
どうとでもなれというわけじゃないけど、実際の所は孤児院時代から降りかかってくる災難にその場その場で対処するだけで精一杯だった。
とてもじゃないけど将来を見据えてとか後々のために手を打っておく、というような余裕がなかったのよね。
だから何が起こってもあんまり悩まなかったし、何とか切り抜けてもそこで立ち止まったりはしなかった。
すぐに次が押し寄せて来るから。
孤児だからといって世の中は容赦しないというか、むしろ厳しく当たってくる。
私を捨てた(客観的には)親を恨んだり拗ねたりする暇すらなかったなあ。
そうやって藻掻き続けて何とか生き延びているうちに、孤児から男爵家の庶子にされて。
学院に行かされて伯爵家の使用人扱いから育預、そして今や公爵殿下だ。
いやホント、悩む暇も恨む余裕もなかった。
ただそれだけなのに、どうも周囲には違って見えるらしくて。
「おはようございます。
殿下」
「おはよう」
専属メイドのグレースがいつものように窓のカーテンを開けてくれる。
今日も快晴か。
どっちみち書類仕事と面会で一日が埋まるから天気なんかどうでもいいんだけど。
起き抜けにお風呂に入れられてから朝食。
天気がいい日はバルコニーで食べる。
私の希望でボッチ飯だ。
これから嫌と言うほど人と会うのよね。
せめて朝くらいは孤独を楽しみたい。
専任侍女が来たので聞いてみる。
「今日の予定は?」
「午前中は面会の予約が入っております。
午後はメロディアナ様からのご要望が来ておりますが」
それは初耳だ。
「メロディが何をしたいって?」
「学院を見学したいとのことでございます。
出来れば殿下にご案内頂きたいと」
何と。
でも確かに、メロディの立場だったらテレジア王立貴族学院を観てみたいと思うだろうな。
「私と一緒に?」
「出来ればと」
うーん。
私はいいんだけどね。
テレジア公爵のお仕事はどうなる。
「私が抜けてもいいかな」
「半日程度でしたら。
殿下はデビュタント以来、学院から足が遠ざかっておられます。
ここらで息抜きがてらにご訪問もよろしいかと」
平然とのたまう専任侍女。
もう秘書だよね。
逆に言えば専任侍女ってそれくらい重要な立場なのよ。
家令でも家令見習いでもなく、サンディがそれを言えるくらいには「偉い」。
「それじゃあそういうことでお願い」
「お心のままに」
これで決まる。
高位貴族って楽でいいなあ。




