217.密談
驚いたというか何というか、翌日の朝食後すぐにサラナ連合王国シルデリア王家第一王女のメロディアナ様のお渡りがあった。
王族どころか高位貴族にしても異様な早さだ。
これは多分、メロディがすべてを掌握していて臣下任せにしていないからだな。
ただの王家のお姫様じゃない。
転生者だ(泣)。
「おはようございます。
メロディアナ様」
「ごきげんよう。
お世話になります」
大国の姫君にしてはざっくばらんすぎる挨拶と共に離宮に乗り込んで来た王女様は、私に挨拶するとそのまま用意されたお部屋に引っ込まれてしまった。
出来る。
いや、私はテレジア公爵としての公務が詰まっているのよね。
もちろん、シルデリアの姫君にお願いされたら予定を変更してお付き合いさせて頂く事はやぶさかでは無いけれど、それをやられたら正直言って迷惑だ。
私というよりはテレジア公爵家が。
そこら辺まで判って動いているんだから、転生者というだけじゃなくて王家の者としても有能なんだろうね。
「メロディアナ様のご要望は何でも聞いてさしあげて下さい。
あと、ご予定についても」
「かしこまりました」
家令代理のアーサーも板についてきたなあ。
最近は家令に指示されることなく動いている。
みんな成長している。
そういえば最近、コレル男爵を見ないけどどうしたんだろう。
正式にテレジア公爵家の執事になったはずなんだけど。
またどっかで隠密やっているのかしれない。
まあいいけど。
結局、その日は書類仕事に加えて飛び入りで面会があったりして、メロディと会えたのは晩餐の席でだった。
私がご招待した形になってはいるけどむしろ当然だ。
だって迎賓館から離宮に移ったことで、王宮でのお食事その他はキャンセルされてしまっているはず。
離宮で食べないと断食することになってしまう。
晩餐の参加者はメロディアナ様と私だけだった。
当たり障りの無い会話をしつつ食べる。
もちろん日本語を使ったりはしない。
双方のお付きや使用人を合わせると十人以上の人達に見守られながらの食事なのよ。
とてもじゃないけど私的な会話なんか出来ない。
食事が終わってデザートまで食べて解散。
それから私とメロディアナ様は双方お風呂に入って部屋着に着替えてからようやく会うことが出来た。
やれやれ。
豪華だけど私的な用途で使われる応接室で向かい合って座り、お茶をゆったりと飲む。
「ご苦労様でした」
メロディアナ様が同情している、という雰囲気で言った。
「いえ。
毎日のことで」
「マリアンヌ様は現役の公爵殿下でいらっしゃいますのよね。
色々と気苦労がおありかと思います」
「なかなか慣れませんが、仕方が無いことですので」
毒にも薬にもならない会話を交わす。
なぜかというと、お互いに侍女やメイドが控えているから。
厨二病な話をすることは出来ないし、かといって日本語を話すのも駄目だ。
私とメロディアナ様がなんで聞いた事も無い言葉を話すのか、という疑念が広まる恐れがある。
なので、とりあえずはテレジア語の空虚な会話で終始していたんだけど。
「それでは」
適当に時間を稼いでから私とメロディアナ様は双方の使用人を下がらせた。
王族同士の突っ込んだ話をしたいということで。
人払いもする。
もちろん隣のお部屋にはお付きや護衛が控えていて、何かあれば飛び込んでくるだろうけど。
女同士だから礼儀上問題になることもなかろう。
そして二人だけになった途端、メロディアナ様じゃなくてメロディが言った。
【さて、続きよ】
【やっぱり日本語で話すんですか】
【それはそうでしょう。
誰にも漏らしたくない秘密だし】
もちろん、この会話も双方のお付きに聞かれているだろうけど理解出来まい。
王族同士の隠語だと思ってくれれば御の字だ。
ということはメロディも自分が転生者であることを誰にも伝えてないのか。
痛い話だからなあ。
同じ痛みを持つ転生者にしか明かせないのは判る。
私も誰にも、それこそグレースやエリザベスにすら話してない。
狂人だと思われるだけだろうし。
【それでは、と。
貴方はこの世界が、ええと何とかいう乙女ゲーム小説の世界だと言っていたわよね】
早速切り込んでくるメロディ。
人に言われると痛さが身に染みる。
【「愛は白き輝きと共に」です。
調べたんですが、小説の舞台になるテレジア王立貴族学院の名前や登場人物名、その身分や環境まで細部に至るまで一致しました。
設定だけは】
メロディが身を乗り出してきた。
【その言い方だと違いがありそうね】
【はい。
というよりは初期設定以外は全部と言いたいくらい違います。
例えば小説ではテレジア王立貴族学院は共学で制服や学年、クラスがありましたが、現実には似ても似つかない教育機関です】
そうなのよね。
私の前世の人が読んだ小説では、ヒロインは新入生として入学するんだけど同じクラスにサポートキャラのエリザベスがいた。
上の学年には攻略対象の人たちがいて、休み時間に学院の裏庭やガゼボなどで会って話すことが出来た。
でも。




