216.お迎え
一瞬、何を言われたのか判らなかった。
だって内容が。
というよりは今の、日本語よね?
ということは。
【両方のいいとこ取りというか。
ではなくて、メロディアナ様も転生者でございますか】
言ってしまってから気がついた。
これ、私の前世の人が知っていた痛い台詞ナンバーワンの単語なのでは。
咄嗟に出てくるなんて私も厨二病だったのか(泣)。
【メロディって呼んで。
お互いに日本語で会話している時点で言い訳のしようがないわよね。
そう、私も転生者です。
前世は日本人女子高生でした。
貴方は?
日本人よね?】
いや日本語しゃべっている段階で決まりだとは思うけれど。
【はい。
だと思います。
私も女子高生でした。
とはいえ、個人情報はほとんど覚えていないのですが】
メロディアナ様、いやメロディが頷いた。
【私もなの。
自分が21世紀日本の女子高生だった事や学校生活なんかは覚えているんだけど、家や私個人の事はすっぽり抜けている。
忘れたというよりは最初から無かったみたい】
【ええと、それって】
【転生したというよりは、個人情報以外のデータを抽出して今の私にインストールしたというような感じ?
貴方はどう思う?】
【……言われてみればそんな気がします。
忘れたと言うよりは最初からない、と思えます】
やっぱりか。
私と私の前世の人って、どう考えても同一人物とは思えないのよね。
知識だけじゃなくて性格や考え方も違い過ぎる。
私の前世の人は理系だったみたいだけど、私は明確に文系だし。
正直、数学や物理の公式や法則は覚えているけどそれだけだ。
まあ、その知識は使わせて貰っているけど。
そんなことを考えているとメロディアナ様、いやメロディは頷いた。
【やはりね。
ところで貴方、やっぱりこの世界は乙女ゲームなんだと思ってる?】
痛いよ。
痛いんだけど避けては通れない話題だ。
【はい。
題名も判っています。
「愛は白き輝きと共に」という、ゲームではなくて小説ですが】
痛い(泣)。
自分で言っていて致命傷になるくらい痛いんだけど。
【まあ。
どうして判ったの?】
【設定が一致しました。
と言っても一致したのは設定だけで、物語は最初から破綻していたんですが】
【え?
でもテレジアには学院があって貴方はそこに通っていたのよね?】
【それはそうなのですが】
長くなりますよ、と伝えたらメロディははっと気がついて囁いた。
【今はこれくらいにしましょう。
私は迎賓館に泊まっているのだけれど、出来れば貴方の屋敷に招いてくれない?
気が合ったということで】
【判りました】
望む所だ。
それから私たちは慇懃に挨拶を交わして別れた。
帰りがけに専任侍女に聞いたら今日はもう予定がないというので、家令経由で王家に打診して貰う。
メロディアナ様と凄く気が合ったので、出来れば離宮に滞在して頂きたいのですがよろしいでしょうか、と。
直接手紙でも書けばとは思うんだけれど、シシリー様に習った通りそれでは駄目だ。
王家に何かお伺いする場合はまず非公式に打診する。
いいよ、というお返事が(非公式に)返って来てから動くことになっている。
それを抜かしていきなり手紙とか書くと王家を下に見ていることになってしまう。
王族や高位貴族の礼儀は本当に面倒くさい。
夕食前に王家からお返事が(非公式に)届いた。
メロディアナ様もご希望なので是非ということだった。
王家にしてみれば、出来れば許可したくはないだろうけどね。
何せテレジア公爵は政治的な爆弾だ。
よその国の貴顕と過度に親しくなるのは出来れば避けてほしいと思うのは当然。
だけど、それを強制したら私のご機嫌を損ねることになるかもしれないし、それが回り回ってゼリナやハイロンドやライロケルといった列強の反感を買う恐れがあったりして。
因果な商売よのう、王家って。
私は早速王家宛にお手紙を書いて家令に渡した。
「メロディアナ様とお付きの方々のお部屋、用意出来る?」
「心得てございます」
家令によれば、この離宮にはまだ部屋が有り余っているそうだ。
王宮に比べたら小さいけど、腐ってもお城だものね。
しかも、もともとは王家の別邸として建てられたそうで、むしろ貴顕が過ごしやすいように設計されているらしい。
具体的には豪華なお部屋が多いとか。
確かに王宮にこれだけ近いんだったら本当はお城としての機能なんか必要ない。
迎賓館は別にあるんだから、離宮に泊まって頂いてもてなすとしたら本当の重要人物だけだ。
「それではお願い」
「お心のままに」




