20.臣下
「逆に言えば、私みたいなのは高位貴族の方に関わらないで済むということよね」
何気なく言ったら否定された。
「向こうからは自由に関われるから。
その場合、こちらの拒否権はありません」
「……そうでした。逃げようがないのね」
「何か命令されたら断れないしね。もっとも」
「もっとも?」
「理不尽だとか意味が通らないとか、自分には関係ないと思ったらとりあえず受けておいて相談しなさい」
「誰に? 親?」
「そうね。もっとも実家の爵位が低いと何も出来ないから、あなたの場合はとりあえず男爵様に連絡して判断して貰いなさい。
出来れば寄親に頼るのがいいかもしれない」
程度問題だけど、とエリザベス。
私の実家は男爵家で、貴族社会では最下位だ。
実はもっと下に准男爵とか騎士爵とか、あるいは爵位なしの貴族なんかもいるそうだけど、そういう人たちは高位貴族から見ると使用人同然だそうだ。
つまり目に入らない。
何か命令する場合も自分の臣下に命じて行う。
侯爵伯爵はもちろん、公爵とか王族から見て「貴族」と認識される最低限度が男爵だということだった。
というのは男爵という身分がある意味特殊だから。
男爵って平民や騎士身分の人が授爵したり昇爵したりしてなる身分でもあるのよ。
例えばエリザベスの家は平民だったお父上が王家に命じられて男爵となった。
歴史でも伝統でもなく、能力や実績が認められた結果だ。
つまり王家はお父上個人を認識したことになる。
私の実家のサエラ男爵家はミルガスト伯爵家の寄子として領地の代官を任されているけど臣下というわけではない。
あくまで国王陛下の直臣なのよ。
つまり男爵は当主個人が王国の貴族として立っている。
貴族の中で一番数が多く、全体の4割くらいは男爵らしい。
これに反して、例えば子爵って実はあんまり数がいないそうだ。
「そうなの?」
「そもそも子爵という爵位は下級貴族(男爵)よりは上だけど中堅貴族(伯爵)までいかない、という身分が必要になって造られたそうなの。
だからある意味、中途身分という位置づけね」
さすがエリザベス、詳しい。
「でも子爵で領地を統治している人もいるけど」
「それって実は代官よ。
というのは、高位貴族家の跡取りが成人すると子爵を名乗ることが多いわけ。
そういう人は侯爵とか公爵とかを継ぐ前に練習ということで領地の一部を任される」
「そうか!
だから『子』爵か」
「王家でもいずれ臣籍降下する王子なんかが成人したら、対外的には子爵と名乗ることもあるそうよ。公的な集まりなんか王子でいいけど、ちょっとした舞踏会やパーティなんかに招かれて王子を名乗ったら何も出来なくなるでしょ」
確かに。
気楽な会に王子が来てしまったら参加者はろくに話も出来ないだろう。
だから王族や高位貴族は擬態するわけか。
「擬態というわけでもない」
エリザベスが否定する。
「王家や高位貴族家は色々な領地を持っていて、領地に爵位がついている、というよりはその領地の領主がその爵位を名乗れるの。
だから名目上の領主になれば本物の子爵になれる」
「そうなんだ」
「国王陛下や王子殿下が王家の領地の領主になることもある。
お忍び用に爵位が使えるでしょ」
「でも領主なんか出来ないのでは」
「もちろん、代官にやらせるわけ。そういう人は無爵だけど、領主代理として貴族扱いされる」




