205.領主代行
「貴方、王宮勤務では?」
「先日、お役目を解かれて正式にテレジア公爵家に着任致しました。
今後はテレジア公爵領を差配させて頂きます」
何と。
ロンバートさん、私の配下になったらしい。
その辺りの人事は王家が仕切っているわけね。
私には無理だからいいんだけど。
「家令なの?」
「領主代行でございます。
もちろん、殿下の承認を頂ければのお話でございますが」
駄目とか言えるわけないでしょう。
「もちろん。
嬉しいわ。
よろしくね」
「お心のままに」
そうか、そういうことか。
家令はテレジア公爵家の家令で、主にテレジア公爵関係の問題を差配する。
でもロンバートさんは領主代理としてテレジア公爵領自体を差配するというわけか。
やっぱり大物だった。
おそらく爵位持ち、それも伯爵級とみた。
法衣伯爵という身分ね。
王家から直接命令を受けて働くという。
別にいいのよ。
私には関係ないし(泣)。
「そういえば私、テレジア公爵領の方々にご挨拶するために来たと思ったんだけど」
「準備してございます。
とりあえず本日はお疲れかと。
ごゆっくりお休み下さい。
謁見は明日からのご予定となっております」
それはありがたい。
いや、たかが半日馬車で移動したくらいでは疲れないけど、私にとっては未知の土地だもんね。
心を落ち着かせる余裕が欲しかった。
「では」
そして私はテレジア公爵の館に足を踏み入れた。
広い。
というよりはでかい。
お部屋に着くまで階段を上がって廊下を延々と歩かなければならなかった。
しかもこのお屋敷、お城じゃないから色々と余裕がある。
廊下は広いしドアもでかい。
私のお部屋だと言われて入ってみたら、私の前世の人に記憶にある学校の教室、いやむしろテニスコートくらい広かった。
しかもこれ、居間だという。
「殿下は公爵でございます」
専任メイドがこともなげに言うけど、去年まで小さなベッドだけで面積の半分くらい占領してしまっているミルガスト伯爵家の使用人宿舎のお部屋で暮らしていたのに。
その後、お屋敷の客間や離宮に住んでいたけど、そんなに極端に広いということはなかったのになあ。
離宮はお城だから、建物はでかいけどお部屋や廊下は狭かったものね。
「ここを一人で使えと?」
「元は引退したテレジア公爵家の当主ご夫妻がお過ごしになっておられたと」
それってつまり前テレジア国王陛下と妃殿下じゃないの!
それは贅沢なはずだ。
つまりここって前テレジア王家の避暑地とか別荘みたいなものだったのか。
それなら頷ける。
いくら何でも一貴族のお屋敷としては破格すぎる。
公爵家でもどうかと思うくらいだ。
まあしょうがない。
専任メイドが配下のメイドさんたちを指揮して色々やっているのを尻目に、私はお部屋の中央あたりにあったソファーに座った。
おう、最高級。
ふと気づいて聞いてみる。
「ここって今まで誰が住んでいたの?」
「閉めてあったということでございます」
いつの間にかそばに立っていた専任侍女が淡々と言った。
「そうなの?
だって王家預かりだった時も領主代理の人がいたんでしょ」
「その方はこのお屋敷を使えるほどの『格』はなかったということで、執務に必要な部分を除いては閉められていたようです。
ちなみにこのお屋敷は領主のお住まいではありますが、厳密に言えば今まで当領地の領主がお暮らしになられたことは一度もなかったと」
それはそうか。
王家の直轄地だった頃は、領主は国王陛下なんだからここに住んでいたはずがない。
テレジア公爵家の領地となってからは前国王陛下と妃殿下がお住まいになっておられたみたいだけど、その時も名目上の領主はテレジア公爵であって前国王陛下じゃなかったからね。
うーん。
これだけ贅沢なお屋敷が避暑用でしか使われないのはもったいないけど、今のテレジア公爵も残念ながらここには住めそうに無いなあ。
だって陛下が許さないと思うのよね。
渉外のお役目を頂いたってことは、離宮に住んで外国の方々を接待しろという意味だから。
王家の目の届くところに置いとかないと怖くてやってられないのかもしれない。
テレジア公爵は未だに不発弾扱いなんだろうなあ。
ていうか、もっと危なくなってるかもしれない。
だって母上と祖母上が大っぴらに介入してきているもんね。
あの方々の様子では国内の貴族はあらかた踏み潰されて無害化されたみたいだけど、今度は外国からの干渉が厳しくなりそうな気がする。
突然、ミストア神聖国などという穴馬が出て来たりして。
あれも多分、母上の仕業というか後始末なんだろうね。
まったく祖母や親がアレだと子供は苦労するよ。
その日は居間で一休みした後、専任執事に晩餐までだだっ広いお屋敷を案内してもらった。
なぜそんなに詳しいの?
「あらゆる事に気を配るのが執事のお役目でございます」
さいですか。




