203.順調?
私が始めたんじゃ無い!
でも世間的にはそうなっているらしい。
私もうっかりしていたけど、最初は確かに楽曲の原曲を提供したというだけだった。
当時はサエラ男爵家の庶子という身分だったし、私個人はシストリア様じゃなくてライラ様たちの影に隠れて認識すらされてなかったはず。
でも最初の歌劇がヒットした辺りから風向きが変わった。
私が男爵家の庶子ではあるけど伯爵家の育預だったり高位貴族の令嬢たちと親しく交際しているどころか友達扱いされていることがバレた。
しかも次々に企画される歌劇の企画に関わっている。
そして突然の公爵位叙爵。
貴族界に吹き荒れた衝撃が収まらないうちにテレジア公爵家が歌劇事業に乗り出すというか、原典を提供したりスポンサーになったりして。
私が学院で芸術分野のメダルを頂いたことも知られて、いつの間にかテレジア公爵家が芸術の守護者みたいになっていた。
忙しくて家令や執事にそういう事を丸投げしていたら、やらかされた。
「やはり知られたか」
「好都合です。
テレジア公爵の真の姿が公になることを少しでも遅らせられれば」
私の真の姿って何?
まあいい。
「国内はいかがでしょうか」
王太子殿下が言った。
ずっと海外漫遊していたからね。
私もそれは知りたい。
「思ったよりは混乱が少ないというか、治まっております」
宰相閣下が応えた。
そうか。
国王陛下も地方巡業(違)していたっけ。
もちろん国王陛下が自ら情報収集なんかするわけがない。
陛下が動くとなるとその随員や護衛が大量につくわけで、その中に宰相閣下の諜報員が混じっていたんだろうな。
陛下は隠れ蓑にされたと。
「そうなのか?
もっとかかると思っていたが」
「ハイロンドとライロケルの手の者が動きました。
交易関係を抑えられれば地方領主など為す術もないかと」
母上と祖母上がここでも暗躍していた。
よその国で何やってるのよ!
「それでいいのですか」
「仕方がなかろう。
シェルフィル様に直々に言われてしまってはな。
御前だってセレニアに睨まれたら」
陛下のぼやきに王太子殿下が沈黙した。
ヤバいよ。
テレジアって大丈夫なの?
現国王と次期国王が両方とも他国の皇妃や王太后に頭が上がらないって。
「……ならば仕方がありませんね」
「そうだ。
むしろ助けになって頂いたと思えば」
諦めムードだった。
君主って大変なんだな。
よかった私、たかが公爵で。
「では次だ。
テレジア公爵、学院関係はどうなっておる」
威厳を取り戻した陛下がおっしゃった。
変わり身が早い。
「宰相閣下には報告済みですが、今のところ順調です」
専任執事に聞かされた事を伝える。
テレジア王立貴族学院に新しく研究室を設立し、私が特任教授に就任することが内定していること。
助教にはテレジア公爵家の侍女見習いを初めとするそれぞれの専門家が就任すること。
既にめぼしい者には声を掛けて学生を集めていること。
「来年の春には開室出来ると報告を受けております」
「さようか。
よくやった」
陛下にお褒め頂いた。
これって実は凄いことなんだけど、残念ながらここは私的な場なので公にはならない。
でも叱られるよりはいいよね。
「歌劇事業も発展していると聞いたが」
「報告に拠れば。
もっともテレジア家としては原典の提供と資金供出に留めております」
実はよく知らない。
シストリア家に丸投げして、後は好きにやってと言ってある。
物語は大量に提供したから当分は大丈夫だろう。
「こんなところでしょうか」
「そうだな。
ミストア神聖国の出方が気になるが、こちらからは動きようがない。
何かあったら報告を」
「は」
実はミストアの人たちってまだ離宮にいてあれこれ動いているみたいなのよね。
それどころかサエラ男爵領に人を派遣して調べたりしているらしい。
その、数代前に降嫁したとかいうミストアの姫君? について調査しているそうだ。
私には別に関係なさそうなのでほっといてるんだけど。
でも確かにこっちからは何かしようがないのよね。
「このくらいか」
「ですね」
「はい」
やっと終わったか、と油断した途端、陛下がおっしゃった。
「そういえばハイロンドとライロケルから打診があったぞ」
「打診、ですか」
「うむ。
宰相」
「両国から我が国に留学生を送りたいとのことでございます。
テレジア王立貴族学院に在籍して色々学びたいとのことで」
「そういえばセレニア様も留学生という名目で滞在されていたんでしたよね」
王太子殿下が懐かしそうに言った。
それ、妃殿下に聞かれないようにした方がいいと思うよ。
特に「様」とかつけちゃ駄目でしょう。




