19.接点がない?
「高位貴族って必ず家臣を連れているの?」
聞いてみた。
「そうとは限らないけど。
でもそれこそ王家や公侯爵家の方なら、侍従や侍女に加えて護衛騎士やメイドを引き連れているのが当たり前らしいわ。
必要というよりは権威付けの意味で」
「メイドも?」
「殿方なら下男ね。
家臣に雑用係をさせるわけにはいかないでしょう」
そうか。
侍従や侍女、護衛騎士って家臣なのか。
それぞれお役目が決まっているから「手の者」は出来ない。
だから雑用を担当する使用人も必要と。
「伯爵家は?」
「色々だけど、少なくともお嬢様に侍女くらいはついてるわね。メイドだけってあり得ないんじゃないかな」
まあその家の経済状態にもよるけど、とエリザベス。
前世の人の記憶とはかなり違うみたい。
まあ小説の話だけど。
実際には伯爵家だからこう、と決まっているわけではないそうだ。
ただ伯爵以上は基本が領地貴族なので当然だけど統治するべき領地がある。
そして領地の統治は貴族家だけでは出来ない。
使用人を使う事になるけど、全部が平民ってあり得ないそうだ。
だって伯爵の下にも領地管理のための官僚が必要だから。
そういう人たちを全部平民から採用するわけにもいかないし、下位貴族に代官をやらせたとしても役人は必要だ。
治安維持や税収の必要から騎士団や警備隊、徴税事務所にも人がいる。
そして下位とはいえ貴族を寄子にしたら、どうしてもその家族や親族も雇うことになってしまう。
「柵という奴?」
「そう。義理や恩義、取引が複雑に絡み合って」
ということで、領地貴族家には大量の臣下や配下がいるらしい。
そういう人たちのうち優秀な者は主人やご家族のお付きという形で拾い上げられる。
よって貴族ご本人やご家族には過剰なまでのお付きがいると。
これでは、公爵家のお嬢様と男爵令嬢は一対一でお話しするどころか同席すら無理だ。
増してジュースをぶっかけるとか噴水に突き落とされるなんて不可能。
近寄ることも出来ないでしょうね。
公爵令嬢なら男爵令嬢が突っかかろうとしただけで首が飛ぶかも。
そのために護衛騎士がいるんだし。
「すると連れているお付きでご令嬢のご身分が判る訳か」
「大体ね。身分とお付きの人数は比例すると言っていいと思う」
でも、とエリザベスは続けた。
「そもそも高位貴族は私たちみたいな下位貴族の子弟とは会わないから。接点がないでしょ」
「ああ、そうか。お友達とか仲間とかあり得ないわよね」
「そうそう。舞踏会やパーティなどでは同席する可能性はあるけど、その場合だって必要がなければ接触しようがない」
「確か、身分が下だったら面識がない方には話しかけることも失礼になるのよね」
「その方のお知り合いにご紹介していただければ別だけど」
これは私も知っていた。
というか貴族教育の最初にこれを叩き込まれる。
やったら大変なご無礼になるらしい。
「理由は判る?」
「何となく」
そう、この規則がないと高位貴族はどんな相手でも話したり挨拶したりしなければならなくなる。
貴族って忙しいのだ。
高位であればあるほど多忙だ。
下位貴族が高位貴族に接触するとしたら、目的は嘆願とか依頼とかが一番多い。
そんな要求にいちいち答えていたら時間がいくらあっても足りない。
だから何か言われる前に遮断する。




