18.エリザベス
エリザベスは情報の宝庫だ。
私が何も知らないで地雷原を歩くのが忍びないと言って、ことあるごとに色々と教えてくれる。
例えば使用人と家臣の違いについて。
エリザベスはどこに行くにもメイドを連れているけど、このメイドは平民出身だ。
私たちよりいくつか歳上で既婚らしい。
家族でエリザベスの家に雇われていて、身分的には商会の社員なのだそうだ。
「使用人ね。お給金は商会から出ていて命令権は商会の番頭だったかにある」
「私の直接の上司は使用人頭です、お嬢様」
メイドの人が補足してくれた。
メイド長とかじゃないのか。
職業メイドじゃなくて、あくまで商会の使用人がメイドやっていると。
「つまりエリザベスには仕えていない?」
「そう。私にはサラへの命令権はない。それどころかお目付役」
「お嬢様が暴走しなければ良いだけのことです」
「ほらね」
結構仲がいいみたい。
それはそうか。
険悪だったらやってられないだろう。
「ついでに言えばサラはメイドだから、メイドの仕事しかしない。例えば暴漢が襲ってきても私を守って戦ったりは職務外」
「それはそうです。私の職務に護衛はありませんので」
メイドなら当然だ。
私の前世の人の記憶だと、武装メイドが主君を守って戦ったりしていたけど。
あれは虚構なんだろうな。
「でも例えば侯爵家の令嬢が侍女を連れているとするでしょう。その侍女は使用人じゃなくて侯爵家の家臣よ」
「家臣? 使用人とは違うの?」
「貴族の家臣は一族に準ずるの。そして一族なら主人やそのご家族に尽くす義務がある。
同時に主人やその家族は家臣を守る」
よく判らない。
「尽くすって、従うってこと?」
だったら使用人と同じなのでは。
「ただ従うんじゃなくて、例えば主人が間違った事をしようとした時には諫めるとか、時には身をもって防ぐとか。まあ、程度問題だけどね」
「あー。なるほど」
何となく判る。
基本的には主人に従うけど、自分の判断で動くこともあるということか。
だけどそれは私利私欲とか自分勝手じゃなくて、あくまで主人のためを思ってとか。
「理想的にはよ? 実際にはもっとサバサバしているけど」
「まあ、そうでしょうね」
「で、主人の方は家臣を守る義務があるっていうのは、例えば外部から危害が加えられそうだったら出て行って庇うとかね。
もちろん家臣が間違っている場合はそれを諫めた上で」
「そうか。見捨てたら駄目なんだ」
「主従とはそういうものだから」
私の前世の人の記憶にある小説で、公爵令嬢の取り巻きの令嬢が虐められたら庇うようなものか。
いやあれは違うと思うけど。




