183.ジョーカー
うん、確かに。
そういうことなら頷ける。
だって私って外国の王家とコネがありまくりだものね。
最強のカードかもしれない。
少なくともゼリナやハイロンド、ライロケルの諸国は私に好意的だろう。
その他の国も私の祖母上や母上を仲立ちにすれば上手くやれそうだし。
面倒くさいことは誰か有能な人に任せて、私はにこやかに接待すればいいと。
そんなの孤児院でよくやっていたからね。
支援者を満足させることなんか簡単だ。
「判りました。
その勅命、喜んで務めさせて頂きます」
ちょっと皮肉を込めたら苦笑された。
さすがは一国を率いる陛下。
祖母上や母上には及ばないにしても、私なんかよりよっぽど腹黒だ。
「それでは」
「うむ。
ご苦労であった」
陛下の許可を得て退去する。
王室ご一家はまだお茶会を続けるらしい。
立ち上がって礼をとり、静々と引き上げる私なのであった。
一団を引き連れて客間に戻り、とりあえず殿方を追い出してお風呂に入る。
全身が強ばってグタグタだ。
濃すぎる時間だった。
正直、祖母上や母上が家族だったことについては未だに心が追いついてない気がする。
一晩眠ってからでないと冷静に考えられそうにもないなあ。
お風呂から上がって髪を乾かしながらお茶を飲んでいたら家令が来た。
「お見事でございました」
「何とか。
これからどうするんでしょうか」
「王宮からの退去の許可が出ております。
ご帰宅なさいますか?」
「是非!」
食いついてしまった。
だってこれ以上王宮にいたら何が起こるか判らないでしょう。
そもそも祖母上と母上がまだ滞在しているはずだし。
また会うことは確実でも、出来れば離宮で迎え撃ちたい。
いや戦う気はないけど(笑)。
「では」
家令が専任秘書に頷くと室内にいた人達が一斉に動き出した。
私は何もしなくていいのか。
と思ったら衣装部屋に連れて行かれた。
お部屋の外に出るだけでも着替える必要があるのね。
ああ、孤児や女子高生が羨ましい。
そして私は懐かし? の離宮に帰還した。
家令見習いを筆頭に侍女や下僕、メイドさんたちが整列して迎えてくれたけど、そんなの気にする余裕はなかった。
久しぶりに自分のお部屋に戻ったらどっと力が抜けて、そのままベッドに飛び込んで寝てしまいそうになった。
もちろん専任侍女に阻止されてネグリジェに着替えさせられたけど。
死んだように眠って目が覚めたら窓の外が暗い。
「お目覚めでございますか」
グレースが聞いてくるけど、ずっと様子を覗っていたのか。
ちょっと怖い。
「起きるわ」
「湯浴みはいかがなさいますか」
「今はいい。
それより何か食べたい」
「かしこまりました」
ちょっと言い方が公爵らしくなかったかな。
でもいいのだ。
シシリー先生に拠れば、高位貴族は自分より上の身分の方がいない限りは礼儀なんか忘れてもいいらしい。
それはそうよね。
王室のご一家だって、家族しかいない場所でなら畏まらないだろうし。
グレース配下のメイドさんたちに着替えさせて貰って食堂に行くと用意が出来ていた。
晩餐じゃなくて軽食だ。
良かった。
「ありがとう」
「お嬢……殿下のお好みに合わせました」
グレースもまだぎこちないな。
その方が私も楽だけど。
ていうか公爵になったと言っても何も変わらないものね。
でも今まで通りとはいかない。
家令のお話では、これから数ヶ月かけて公爵家当主としてのお仕事に慣れる必要があるそうだ。
研修みたいなもので、当面は家令がつきっきりで指導してくれる。
でも領地に視察に行って当地の公爵家配下の人たちとも会わないといけないらしい。
もちろん私に領地運営なんか出来るはずがないので、これまでテレジア公爵領を運営していた代行の人にそのまま続けて貰うようにお願いしてある。
それでも一度は会って面識を得ておかないといけないそうだ。
面倒くさい(泣)。
でもまあ、食い扶持だと思えばいいか。
少なくとも孤児のまま酒場で女給やったりするよりは安定している。
サンドイッチもスープも冷えていたけどしょうがない。
毒味は必須だそうで、どうしても作ってから時間がたってしまう。
貴族なら当たり前だ。
平民はもちろん孤児ですら温かい食事が当然なのになあ。
思えばミルガスト伯爵家の王都邸宅で賄いを食べていた頃が一番マシだったような。
でも公爵家も捨てたもんじゃ無い。
冷えていても美味しいのよね。
さぞかし名のある料理人さんが作ったんだろうなと思って聞いてみたら言われた。
「ミルガスト邸の料理長を引き抜いたと聞きました。
お嬢……殿下との縁がある方がよろしかろうとのお考えです」
道理で。
違和感がない味だと思ったらあの料理人さんか。
やっぱり公爵家の料理人なら出世なんだろうね。
「ご不満なら交代を」
「このままで良い」
「お心のままに」




