17.貴族だけじゃない
「ちなみに女性は?」
「ドレスだけです。それ以外の服装ってあり得ないのではないでしょうか」
確かに。
そう、貴族と平民の違いは服装なのよ。
一目でわかる。
いや、それは大きな商家の奥方様などはドレスを着るでしょうけれど、逆に言えばその方々は准貴族というか、平民ではないと見なされることになる。
当然よね。
相手を一目見て身分が判らなければ礼儀なんか守れっこない。
判ってきた。
伯爵家の侍女やメイドの人や、学院の人達が礼をとってくれるのは私がドレスを着ているからだ。
服だけで貴族身分だと判る。
逆に侍女やメイドの人達ってみんなお仕着せだもんね。
あれは貴族身分じゃなくて使用人である、と示しているわけか。
侍女の中には貴族家の人もいるだろうけど、お仕着せを着ることで一時的に貴族身分を停止していると。
だってそうしないと使用人のお仕事なんか出来ないし。
男性の使用人もみんな似たような地味な服だったから、あれもお仕着せなんだろうな。
ところで念のために言っておくけど、テレジア王立貴族学院にいるのは貴族だけではない。
当然だけど元はお城だから建物を維持するだけでも人手が大勢必要になる。
お掃除とか大変だよ?
当たり前だけど、私たち生徒やご指導の方々は掃除なんかしないから。
ということで、私が通う離宮にも大量の平民が出入りしているんだけど。
その人たちはいないことになっている。
ていうか無視?
向こうもなるべくこっちの視界に入らないように動くし、廊下などで出会ってしまったら壁に張り付いて頭を下げられる。
それはそうだよ。
下手に何かやって機嫌を損ねられたらクビどころか物理的に首が飛ぶかもしれないんだから。
こっちも使用人はいないどころか見えないことになっているから、万一ぶつかってコケても何も言えない。
自己責任(笑)。
私の前世の人の記憶では小説の中でお嬢様がお茶をこぼしたメイドの粗相に怒って殴ったり首にしたりしていたけど、実際にはあり得ないんじゃないかな。
失敗したメイドを叱るのはメイド長とか侍女の役目で、お嬢様は無視して淡々と別のお茶が配膳されるのを待つだけだ。
だって見えないんだし。
ちなみにこれは侍女やお付きのメイドがいるお嬢様の場合で、私なんかだと普通に見えてしまうことになっている。
でもやっぱり粗相されても自分で怒ったり叱ったりは出来ない。
自分の配下じゃないから。
あくまでそのメイドの上役の役目なのよ。
よその使用人を関係ない人がどうこう出来ないでしょう。
「あんまり酷い場合には告げ口すればいいのよ」
エリザベスが教えてくれた。
さすがはヒロインのサポートキャラ。
お嬢様の立ち振る舞いについては師匠だ。
「告げ口って?」
「メイド長とか執事とかに不満を漏らすの。それでよほど人手が足りない場合以外は配置転換になるから」
なるほど。
自分の手を汚さずに排除するわけか。
怖っ。




