160.自由
何それ。
心当たりがございませんが。
「そうかもしれぬが、御身は幼少の頃から狙われておった。
報告に拠れば孤児院時代にも幾度となく誘拐や殺害目的の襲撃があったと」
「……何度か襲われたことはございます」
「それは氷山の一角だ。
大抵は御身が気づく前に潰したはずである。
手際が悪くて御身に気づかれた事が数回あった」
そうなのか。
私ってそんなに嫌われていたのかよ。
幼児愛好者が私を拉致する目的で襲ってきただけかと。
「殺害目的ですか」
「うむ。
もっとも誘拐目的が大多数だったと報告を受けておる。
何度か組織的な動きもあったようだな。
その都度、王政府が根元から潰しておいた」
物騒な(泣)。
でも私を殺すって。
「やはり、旧王家の血が目的、というよりは邪魔だと」
「色々入り乱れておってな。
単純に王党派対反王家というわけでもない。
更に海外の勢力も侮れん」
陛下は疲れたように玉座に身を沈めた。
「色々難しいのだ。
その辺りは追々、判ってくるであろう。
私がここで言うべきことでもない」
国王陛下はテレジアの最高権力者だ。
そのトップが言うべきではないと?
ていうかさっきから陛下が連発している疑問、全部謎なままなんですが?
とりあえず近々の危機だけでも教えて頂きたい。
「これまでのことは判りました。
つまり、王家が私を守って下さっていたのでございますね?」
「できる限り、な。
あまり大っぴらにやると気づいていなかった者どもも関わってきそうで、最低限の加護しか与えてやれなかった。
その結果、御身は最近まで孤立無援の孤児として育つことになってしまった」
「元々孤児ですので、それは良いのですが。
それより守って頂いていたことに気づかず、申し訳ありませんでした」
自力で幼児愛好者を撃退していたと思っていたけど違ったみたい。
そういえば孤児院時代、何かあったときに警備隊が駆けつけてくるのがやけに速かったような。
孤児院の職員が関わっていた時なんか、孤児の私の証言があっさり受け入れられたものね。
普通は成人である職員の方が信用されるはずなのに、変だとは思っていたのよ。
私としては特別扱いされていた感触はなかったんだけど、そういえば孤児院にも妙に私に優しかったり気に掛けてくれたりする人がいたっけ。
でも表面上は誰も何も言ってくれなかったけどね。
それに孤児同士の諍いは自己責任だったし。
大人は手を出してこないので思う存分潰せた(笑)。
あれも見守られていたのか。
てことは王家って私のやってきたことを全部知ってる?
その上で公爵なんかにして大丈夫なの?
軽くパニクっていると陛下が言った。
「余から述べることはこのくらいだが、何か聞きたいことはあるか?
出来る限りは応えるが」
それは大いにありますが。
でも陛下が敢えて言わなかったことは禁忌なんだろうな。
ならば。
「陛下の恩寵をもって爵位を頂きましたが、何をすればよろしいのでしょうか」
だって王家が臣下に求めるのはそれでしょ。
何かさせたいから授爵させるんだよ。
ただ漫然と過ごしていいわけがない。
陛下はちょっと意表を突かれたようだったが、すぐに笑いながら言った。
「なるほど。
やはり御身はデレク様の血を引いているな。
昨今は貴族の義務をはき違えている者も多いが、さすがはテレジア王家の末裔といったところか」
それはいいから。
「さて、王家が御身に期待することか。
色々あるとも言えるし期待しているのは本当だ。
だが強制はせんよ。
というよりは御身は今後、必然的に焦点となる」
何の?
いや考えるな。
感じるんだ(違)。
「……思うようにやれとおっしゃる?」
「そうだ。
御身は自由だ。
もっともデレク様が出来なかった事を完遂して欲しいという欲はある。
テレジアは御身を後援する」
益々判らなくなってきた。
ただはっきりしていることはある。
陛下、重要な事は何も教えてくれないおつもりですよね?
自分で調べろと。
というよりは待っていたら向こうから来そうだ。
もういいや。
私が黙ったのに気づいたのか、陛下は頷いた。
「このくらいで良いかな?」
「お心のままに」
「そうか。
何か奏上したいことがあれば遠慮無く申し出るが良い。
できる限りは応えよう」
「ありがとうございます」
やれやれ。
やっと終わったというか、逃げたい。
腰を浮かそうとしたら陛下が思いついたように言った。
「ああ、これは教えておこう。
御身の祖母上とお母上は御健勝であられるよ」




