158.近いんですが
それから割とすぐに使いが来た。
国王陛下の予定が空いたらしい。
1時間後くらいに謁見されると。
でもただぼやっと待っているわけにはいかない。
まずお風呂に放り込まれて全身を洗われ、髪を乾かした後、ドレスを着替えさせられた。
デビュタントや舞踏会の時のドレスとはまた違うものだけど、同じくらい豪華だった。
金に糸目はつけないのね(泣)。
鏡台の前に坐らされて髪とか顔とかを弄られ、更に髪を複雑に結い上げられた。
成人したので今までみたいに流すのは駄目だそうだ。
面倒くさいけどしょうがない。
小さいけどティアラに見えなくも無い髪飾りまでつけられた。
最後にお部屋の中央に立って侍女と専任メイドに点検して貰う。
「よろしいでしょう」
よろしくなかったらと思うとぞっとする。
「では」
時間を見計らって客間を出る。
前後を近衛兵に挟まれ、侍女とメイドを従えて廊下を進む。
近衛騎士の衣装を纏ったギルボア様、じゃなくてテレジア公爵家騎士隊長が私の前にいる。
帯剣している。
制服が派手だ。
公爵って王宮でも自分の護衛騎士を伴う権利があるのよね。
普通の貴族だったら王宮の中では帯剣した私兵を伴えないんだけど。
でも私は准王族だから(泣)。
結構歩いて階段を上り、また歩いて立派なドアの前に到達すると、両側に近衛兵が立っていた。
「テレジア公爵である」
「入室を許可する」
これ、近衛兵同士の会話ね。
両開きの重厚なドアが開くと、そこは比較的小さなお部屋だった。
でもメチャクチャに豪華だ。
天井のシャンデリアが煌々と輝いていて明るい。
まだ日中なのに贅沢な。
窓がないから仕方がないんだけど。
ドアの向こう端はちょっと高くなっていて玉座が据えられている。
国王陛下が腰掛けておられるけど、その周りにいるのはほんの数人だ。
公式だけど略式の謁見みたい。
おそばについているのは右筆や執事で、ちょっと離れたところには書記官。
そして近衛騎士が両方の壁際に立っている。
それくらいか。
「テレジア公爵、お招きにより参上いたしました」
教えられた通りに口上すると、何と国王陛下自ら「よく来た」と返して下さった。
私は王宮の常識なんか全然知らないけど、それでもこれって例外的なことだと判る。
つまり国王陛下は最大限、私を尊重されているということね。
内心では礼儀の授業を思い出して焦りながら、外見上は平然と進む。
ちなみに私だけだ。
残りの全員はドアの外で待機。
ここでは国王陛下がすべての責任を持つから護衛や世話役はいらない。
ていうか伴えない。
玉座から数メートル手前でまず礼をとって、そのまま頭を下げ続ける。
お声がかかるまではこの姿勢を崩せない。
きつい(泣)。
「頭を上げよ」
お許しが出て、姿勢を戻すと国王陛下がおっしゃった。
「まずはご苦労。
初陣にも関わらず、見事な働きであった」
いきなりそれか。
まあ、確かにあれって一種の戦だったよね。
「陛下のご指導のたまものでございます」
「いや、御身の功績である。
おかげで王宮の風通しが良くなった」
言っちゃうのそれ?
既に粛正が始まっているらしい。
知りたくないから聞かないけど。
黙っていたら陛下が周りを見回しておっしゃった。
「ここからは私的な話になる。
皆、遠慮せよ」
え?
そんなこと出来るの?
出来るらしい。
執事や右筆、書記官に近衛兵までがぞろぞろと出て行ってしまった。
玉座の両側に目立たないドアがあるのよね。
しかし陛下も大胆な。
雌虎な私と二人きりになるって危なくない?
まあ、どうせ万一に備えて隠し部屋では護衛が待機しているんだろうけど。
国王陛下は皆さんが出て行ったのを確かめてからおっしゃった。
「すまんが少し長くなる。
着座を許す」
えーっ?
破格なんてもんじゃないのでは。
ああ、公的な場ではないからか。
陛下の前で坐る権利って、実はもの凄い特権だ。
授爵とか受領に匹敵するような名誉なんだけど。
非公式な場だからそれほどでもないか。
しかし着座を許すと言われてもね。
戸惑っていたら、いつの間にかいた若い執事らしい人たちが二人がかりで立派な椅子を運んできて玉座の前に設置した。
やけに慣れてるけど、これってよくあることなのか。
執事さんたちは陛下と私に礼をとってから消えた。
芝居がかっている(泣)。
まあしょうがない。
私は何も気にしないふりをして椅子に腰掛けた。
陛下の真正面だ。
近いんですが。




