148.孫を頼む
次の国王陛下にそんなこと言われてうかつに何か言ったら反逆罪になりそうだ。
私が答えないので王太子殿下はかすかに笑って、その後は無言を貫いた。
やっと終わったと思ったら、殿下と入れ替わるように私の前に立つ人がいた。
知ってる。
この初老のイケオジはサラーニア侯爵閣下だ。
「次は私でどうかな?」
断れないよね。
「よろしくお願いします」
次の曲はワルツだったのでゆったりと踊り出す。
サラーニア侯爵閣下。
言うまでもなくお茶会仲間のサラーニア子爵令嬢のお祖父様だ。
それだけじゃなくてテレジア王国の宰相閣下なのよ!
ルミア様も大概だけど、王国の宰相なら切れるなんてもんじゃないだろう。
それにしても宰相閣下、踊れるんだ。
「意外かね?」
「いえ。
そういう訳では」
王太子殿下の次に王国の重鎮である宰相閣下がお相手して下さるって、一応は手順を踏んでいるにしても意味深だ。
踊りながら囁くように言われる。
口が動いてないんですが。
「これから何人か、我々が君の相手をさせて貰う。
一通り終わったら疲れたということで引いてくれ」
「それは、やはり私を守って頂けるということでしょうか」
「そうだ。
今日は他国の貴顕もおいでになっているが、それより危ないのはテレジアの反王家派だ。
君は旗頭になり得る」
それはそうだよ。
テレジア公爵家って、つまり前テレジア王家だ。
その旗を押し立てれば現王家に対抗出来てしまう。
しかもその公爵はデビュタントが終わったばかりの小娘。
取り入るのは容易だと誰でも考えそう。
「ありがとうございます」
「いや、こちらこそ礼を言いたい。
君が覚悟を決めてくれて助かった。
逃げでもして何かあったら取り返しのつかないことになっていたところだ」
そうかな?
それって私自身というよりは周りで色々とありそうな?
曲が終わり、互いに優雅にご挨拶すると、間髪を入れずに相手が変わる。
割り込みは許さないという覚悟を見た。
どうみても事前に仕組まれていそう(泣)。
「次は私だ」
さいですか。
会ったことがない人だ。
どなたでしょう。
「寡聞にして」
「申し訳ないが前から知り合っていたことにして欲しい。
オシム・ヒルデガットだ」
ヒルデガット辺境伯閣下。
あー、そういうことか。
モーリン様の祖父上だから、既に知己を得ていたということにするのか。
身分で言えば厳密には公爵である私の方が上なんだけど、現実的にはどうみてもこの方が偉いよね。
「マリアンヌでございます。
ごきげんよう」
ちょっとふざけて言ったらにやりと笑われた。
「孫から聞かされていた通りだ。
頼もしい限りだ。
よろしく頼む」
何を? とは聞かない。
色々とあるんだろうな。
王政府がらみで。
多分、この方も王家派なんだろう。
つまり陰謀仲間か。
次の曲は何とフォックストロットだった。
いきなりですか。
「行くぞ」
ヒルデガット辺境伯様が言って、素早く動く。
受けて立ちましょう。
それからは一緒に跳ね回った。
辺境伯様、やっぱりもう初老なんだけど鍛えられていて、私でもついていくのがやっとだ。
私の前世の人が読んでいた乙女ゲーム小説に出てくる辺境伯ってみんなゴリゴリのマッチョだった気がするけど、実際には細マッチョタイプだった。
そうよね。
武人とはいえ辺境伯ともなれば前衛ってことはないだろう。
戦う場合でも、それなりの機動はするかもしれないけど、むしろ駆け回って指揮か。
だとすれば力よりは俊敏を重視するべきだ。
「なかなかよく動くな」
「このくらいなら」
「うちの訓練に混ざらないか?」
「有り難いお申し出ですが、ご遠慮させて頂きます」
お互いに高速で相手を振り回しながら意見交換する。
息も切らさないのね。
私もだけど。
曲が終わる。
「楽しかった。
孫を頼む」
「はい」
またか。
何なんだろう。




