134.礼儀の意味
意外。
でもそうか。
国王様って国で一番偉いんだから、誰かに王にして貰うわけにはいかない。
王子なら有り得るけど初代国王は。
でも教会が王冠を授けたとかいう話も聞いたけど。
「教会は王権を保障するだけですよ?
言わば外部の勢力が王家を認めることで権威付けになります。
そんなものがなくても王家は成立しますが。
もっともその後の国の舵取りが多少は面倒になるでしょうね」
そうなのか。
だから国王様は何でも出来るわけね。
自分が一番偉いから。
「違う方法で王になる場合もあります」
シシリー様がまたややこしいことを言い出した。
お腹いっぱいになりかけているんだけど、こういう場合は黙って傾聴するのが一番だ。
経験から学んだ(泣)。
「例えば古の大帝国では、帝国を構成する国の王を皇帝が指名したと歴史にあります。
実際には追認だったそうですが」
「帝国」
「帝国の首座は皇帝陛下です。
そして帝国は皇帝直轄領以外は国としての体裁を整えた各領からなっていました。
これは、元々国だった土地を帝国が併合したからなのですが」
なるほど。
「ただ、その場合でも何の関係もない者をいきなり王にする、というわけにはいきません。
やはり、王として国を統治できる人でないと受け入れられない」
「それで追認ですか」
「はい。
基本的には国王が次代の王を選んで、皇帝に推薦する形になります。
皇帝はよほどの事がなければそのまま承認します」
よほどのことって何だろう。
まあいいけど。
「つまり、やはり国王は自分でなる?」
「初代はそうですが、次からは選ばれます。
世襲か指名で。
簒奪は別ですが」
簒奪とは穏やかじゃないなあ。
「国の乗っ取りですか。
それは自分で決められると」
「簒奪した王はその王朝の初代ということになりますが。
問題はそういう事ではなくて、自分で宣言するにしろ、選ばれるにしろ、周囲の賛同がなければ成立しないということです」
ああ、やっと判った。
そういうことね。
王は自分が王であると言うだけではなれない。
周りの人たち、つまり貴族がそうだそうだと言ってくれないと駄目だ。
そして、王や貴族を結ぶものが必要になる。
「そういうことですか」
「はい。
礼儀は王や貴族がお互いを信頼するために、逆に言えば裏切らない保障として発達しました。
形式ですね。
それを守ることで、自分は王に忠実で貴族として義務を果たすと宣言します。
故に、貴族は礼儀を守る者を同志と認識するわけです」
モルズ様たちが男爵家の庶子でしかない私を受け入れてくれた理由もそれね。
身分違いとか元平民の孤児とかじゃなくて、私が貴族であると宣言したことを認めてくれた。
だとすると私の前世の人が読んでいた乙女ゲーム小説の私ってどうしようもないなあ。
礼儀を覚えなかったり無視したりするって、つまり自分は部外者だと宣言し続けているようなものだ。
そもそも「私は平民だったから」とか言っているんだけど、今は貴族なんだから礼儀を守るのは当然なのに。
攻略対象の貴公子たちって、そんなのにほだされるわけか。
よほど追い詰められていたんだろうな。
そもそも学院では孤立していたんだし。
まあ、現実では学院に来る前に破滅しちゃったみたいだけど。
まあいい。
今の私には関係ない。
生き残るためには何が必要なのか、それが判っただけで十分。
ダンスを頑張ろう。




