12.芸術的素養
登院してからは男女は完全に分断される。
本殿の中でも男女とも行ける場所が限られていて、例外は中庭だけだ。
ここは両方の区画から行けるようになっていて、例えば婚約者同士が一緒に昼食をとったり出来る。
それでも衆人監視の中だからイチャイチャは無理だけどね。
下位貴族なら一人で動くけど伯爵身分以上はお付きというかバスケット抱えた侍女や侍従がついているし。
ちなみに下位貴族の令嬢は滅多にそういうことはしない。
だって既に婚約者がいるんだったら学院なんかに通ってない。
さっさと花嫁修業するなり結婚するなりしているはずだ。
婚約者がいない状態で異性と親しげな所なんか見せたら致命傷だ。
あっという間に噂が流れて社交界から締め出される。
だから婚活や就活は学院とは別の場所で動くことになる。
とはいえ、学院が出会いの場であることは間違いない。
講義や実習の一環として殿方と淑女の共同授業があるのよ。
具体的に言うとダンスとかパーティとか。
少ないけど舞踏会的なイベントもある。
あくまで練習というか、習ったり習得したことを披露する場なんだけど。
演奏会などもあって、これは強制参加ではないにしても半ば義務化しているらしい。
なぜなら貴族社会では避けて通れないものだから。
特に淑女は慣例として芸術的な素養があることが求められるそうだ。
そんなの高位貴族だけだと思っていたんだけど、エリザベスが言うにはむしろ下位貴族にこそ必須なのだとか。
「だって他に自分を披露出来る機会がないでしょう」
「いやでも下手な演奏とかしたらかえって低評価を食らわない?」
「それはある。だから出来るだけ得意な技で勝負する」
技って(泣)。
私は芸術的な素養も芸能的な技もまったくないのに。
「だから歌いなさい。あなたは幸いにして歳より幼く見えるし可愛いから、小さい子が一生懸命頑張ったという評価を頂ける」
「酷い!」
「それしかないんだからしょうがないでしょう」
そういうエリザベスこそ可愛子ちゃんなんだけど。
「私はそんなものでは勝負しない。商売知識と金力で無双よ」
ない胸を張って断言する商家令嬢。
いいなあ。




