127.城
グレースと一緒に馬車に乗る。
サンディもついてきた。
メイドと侍女付きか(泣)。
え?
メチャクチャ豪華というよりはもうこの馬車、桁が違わなく無い?
ピカピカのキラキラだ。
「これは」
「テレジア公爵家の馬車でございます。
まだ授爵前ではございますが、ご用意させて頂いたと」
誰かが気を回した?
ていうか、もう私がテレジア公爵家を継ぐことが既定路線になっているみたい。
正式には誰にも何も言われてないのに(泣)。
ふと気づくと馬車の前後が騎士に囲まれている。
護衛が凄い。
「この方々は?」
「王家の近衛騎士ということでございます。
まだテレジア公爵家騎士団の準備が整っておりませんので」
騎士団があるの?
大げさすぎない?
維持費がもの凄いことになるわよ?
「そんな余裕はどこから」
「テレジア公爵領は優良経営されていて予算は潤沢でございますし、王家預かりになっていた間の積み立てがかなりの金額になっているとのことでございます。
当面、資金の心配はないとアーサーが申しておりました」
やっぱり執事の人もついてくるのか。
最近見ないと思ったらテレジア公爵家の方に行っていたらしい。
もうしょうがない。
諦めたところで別の事が気になる。
「どこに行くの?」
「ですからテレジア公爵家の王都タウンハウスでございます。
ようやく準備が整いました。
遅れて申し訳ございません」
そういえばずっと前にそんなこと言われた気がする。
その後動きがないからすっかり忘れていたけど。
でもそれはそうか。
テレジア公爵になる私がいつまでもミルガスト伯爵家のタウンハウスに住んでいるわけにはいかない。
公爵家には領地もあるし、当然だけど王都にタウンハウスもあるはずだ。
公爵家の王都邸宅か。
凄い大邸宅だったりして。
いやいや、テレジア公爵家は名ばかりのハリボテだったのよ。
そこら辺の適当な家でも不思議じゃないかも。
そう考えていた時もありました。
だけど、馬車はどうみても王都の中心に向かっているみたいなのよね。
王都の中心って、当然だけど王宮だ。
ドキドキしながら窓から外を見ていると馬車の進行方向が逸れた。
良かった(泣)。
そのまま進んで立派な門をくぐる。
こんな場所、貴族街にあったっけ。
「ここは?」
「王宮の二の街でございますね」
え?
「まさか」
「はい。
テレジア公爵は王族でございますので」
やっぱりかーっ!
王宮ってお城があって王族の方々が住んでいる内宮と、その周辺の各種施設がある外宮に分かれていると聞いている。
つまり二の街って王宮の一部だ。
唖然としていると馬車は広い敷地を横断して、少し離れた所に建っているお城の門をくぐった。
お城だよ?
もちろん王城とは比べものにならないくらい小規模だけど、ちゃんと尖塔や城郭がある石造りの建物、いや建造物だ。
「ここって」
「元はテレジア王家の離宮でございます。
テレジア公爵家創立の際に王家より譲渡されたとのことで」
サンディが平然と説明するけど、頭大丈夫?
お城だよ?
「私、ここに住むの?」
「王都に滞在する時の定宿かと。
もちろんテレジア公爵領には本邸がございます」
まさかそっちもお城なんじゃないだろうな。
もういいや。
気にするのはよそう。
幸いにして儀仗隊とか楽隊とかが待っているということもなく、馬車はファサードを通って城門に着いた。
玄関の前には立派な風采の初老の紳士が立っていた。
姿勢が凄いな。
そして両側にメイドや下僕がずらり。
公爵家ってマジでお金持ちらしい。
これだけのお城を維持するためには、やっぱりこれくらいの人数が必要なのか。
だって使用人宿舎らしい建物がミルガスト伯爵邸タウンハウスと同じくらいの大きさなのよ(泣)。
「いらせられませ」
グレースに手をとられて馬車から降りた私にビシッとした姿勢で頭を下げる初老の人。
執事、いや家令という奴かな。
「お世話になります」
「歓迎いたします」
私が何も言わないうちにサンディが話を進めていた。
そうか。
私って正式にはまだサエラ男爵家子弟だものね。
ミルガスト伯爵家の育預って伯爵家が言わば私的に言っているだけで、正規の身分じゃないし。
つまり今の私はテレジア公爵の居城に招かれた客人というところなのか。
公的には。
家令の人に案内されて進むと両側に整列したメイドや下僕の人たちが頭を下げる。
嫌だなあ。
でも慣れなきゃならないのよね。
乙女ゲームのヒロインが攻略対象の王子をゲットしてお城に迎え入れられた場合ってこんなものか。
ビビるなんてもんじゃない。
でも私はまだマシだ。
コレル閣下から事前に色々聞いて覚悟はしていたものね。
王子に惚れられていきなり連れてこられた男爵令嬢ならパニックになるのでは。
ああ、そうか。
突然お姫様になってしまって、精神的に箍が外れたヒロインが高飛車になったりドレスや宝石を買いまくったりメイドを虐めたりするのはそういう理由か。
私はやらないぞ。




