123.理由
それはようございました。
まあ、確かに私の前世の人の世界でも舞台化されて大評判になったらしいけど。
随分昔のお話なのに、繰り返し何度も上演されるくらいウケたそうなのよね。
というのは、それを舞台化したのが女性のみで構成された特殊な劇団だったから。
当然、主役の男装軍人も女性だ。
まさにはまり役というか、むしろごく自然に格好よくて綺麗で。
私の前世の人も直接観たことはない、というよりは舞台には興味なかったらしいからよく知らないのだけれど。
でも漫画(という娯楽)は読んでいたし、音付きで動く絵も観ていたから印象は覚えている。
まあ、いいんじゃない?
皆さんが落ち着くのを待って残りの物語や設定を説明したらやっぱり大受けだった。
舞台監督や脚本家はその場で打ち合わせを始めてしまうし、貴族の方々は出資について相談していたりして。
私、もういらないよね?
「サエラ様がお疲れのご様子。
私どもはここまででよろしいでしょうか」
詳細については後日、書類にまとめてお届けするということで。
モルズ様が代弁してくれて、私たち淑女は退席した。
後は大人の時間だ。
もちろん、モルズ様とシストリア様だけでは無くてヒルデガット様とサラーニア様も一緒だ。
何となく私を加えたこのグループが歌劇の原作集団みたいになっているのよね。
それぞれのお付きの侍女やメイドと共に落ち着いたお部屋に退却してソファーにへたり込む。
淑女にあるまじき態度だけど文句は出なかった。
熱気というか毒気に当てられてしまって。
シストリア邸のメイドがお茶やお菓子を配膳してくれた。
私のメイドは壁の方で同類の皆さんと何やらやっている。
サンディもいる。
そう、正式に私の侍女に任命されたとかで、こういった催しに付いてくるようになってしまった。
私は男爵家の庶子なのに!
そのサンディはシストリア様やモルズ様の侍女の皆さんと一緒にどこかに行っている。
侍女は侍女同士で何かとあるらしい。
「そういえばサエラ様、あの噂は本当なのですの?」
ヒルデガット様が唐突に聞いてきた。
というよりは今まで我慢していたみたい。
表情が輝いていて好奇心丸出しだ。
「あの噂と言われますと?」
「授爵されるとか」
やはりご存じでしたか。
学院では知られてないみたいなんだけど、私が接触するのは下位貴族の淑女だけだからね。
教授の方々はさすがに聞いてこない。
巻き込まれたら拙いと判っているらしい。
でも高位貴族の間ではもはや噂を越えて既成事実化しているような。
当然、高位貴族の令嬢であるヒルデガット様たちもご存じか。
「まだはっきりとは教えられていないのですが」
これは本当だ。
私にしてもコレル閣下から耳打ちレベルで聞かされただけで、別に王家とか王政府とかから連絡や打診があったわけではない。
言ってみれば私ですら噂としてしか聞いてないのよね。
「正式には何も」
「さようでございますか。
でも、私が伺ったところでは近々お披露目があると」
「初耳でございます」
ひょっとして私が知らないだけで、高い所ではどんどん話が進んでいるのかも。
でも私にはある意味関係ないものね。
流されるだけだ。
「異例のことですのね」
「授爵の理由は何と?」
「その辺りは憶測が飛んでいるようで、はっきりとは」
高位貴族令嬢の方々も曖昧にしか知らないらしい。
でも私よりは詳しそう。
この際聞いてみるか。
「あの、その噂が本当だとして、貴族がよく判らない理由でいきなり授爵することはあり得るのでございましょうか」
するとモルズ様方は顔を見合わせた。
「あると言えばございます」
「珍しいことは確かですが。
理由がはっきりしない授爵も多くはありませんが、それなりにはあったと記憶しております」
サラーニア様が言った。
普段はおっとりしていて、この濃い令嬢集団の中では目立たないけど、ひょっとしたら一番頭がいいのではないかと思うのよね。
グループの頭脳というか。
「このような例が?」
「そもそも王家がどなたかを授爵する場合、その理由がすべて明確に示されることはございません。
何か功績や実績を上げた場合でも、本当にそれが理由なのかは不明でございます」
「そうなのですか」
「はい。
王政府が説明することもございませんし。
そもそも、授爵にまで至るほどの事由はむしろ公に出来ないことも多いかと。
表面上の理由とはまた別に、何らかの力が働くことがほとんどと聞いております」
詳しい。
貴族令嬢の知識の域を超えているのでは。
そういえばサラーニア様のお父上は伯爵なのだけれど、やはり領地を離れて王政府にお勤めと聞いている。
宰相府だったっけ?
モロに王政府の中枢ではないか。
私、とんでもない集団に捕まっているんだなあ(泣)。




