106.チョロいな
「うーん。
ここでは話せないな。
ガゼボに行きましょう」
確かに。
というわけでお互いにメイドを引き連れて中庭のガゼボを占領する。
まだ講義の時間なので他に人がいなくて助かった。
一応、グレースに頼んで周囲を警戒して貰ってから向かい合う。
「それで?」
「うん。
まず、ご免。
先に謝っておくけど、私は間諜でした」
いきなり言われてしまった。
そうだったのか。
私が貴顕の落とし子だと知っていて打算でサポートキャラやってくれているのかと思っていたけど。
「間諜って、誰の?」
「それはまだ言えないけど、近いうちには判ると思う。
実は上の方でも混乱というか、方針が決まってないみたいで」
上ってどこよ。
まあ、大体判る気はするけど。
「私の何を調べていたの?」
聞いてみた。
「あ、そういう間諜じゃなくて、あなたの監視が主かな。
後は貴方に何か頼まれたら便宜を図るとか」
「それって間諜のお仕事?」
違うのでは。
「そうね。
どっちかというと監視役かしらね。
でもマリアンヌのことは全部上に報告していたから、やっぱり間諜だと思う」
エリザベスは後ろめたそうだった。
私?
別に何とも思わないけど。
だって絶対に監視はついていると思っていたし、私の行動は見張られていると確信していた。
エリザベスが当事者なのは意外と言えば意外だけど、考えてみたら監視対象に密着するっていい考えだ。
便宜を図ることで私の行動も逐一把握出来るし。
それどころかある程度、誘導すら可能なのでは。
それを言ったら否定された。
「それはやってない、というよりは禁止されている。
貴方には極力影響を与えるなって命令で」
「何で?」
「判らないけど、貴方が自由に動けるように、ということだと思う。
むしろ私みたいなのに影響されたら困るというか」
なるほど。
私の監視をエリザベスに命じた誰かさんは、私を自由に泳がせて試していたわけか。
多分、王家だろうなあ。
コレル閣下ですら知っているんだから、王家が私の素性を把握してないわけがない。
なのに今まで何も言ってこなかったのは、そうするだけの理由があるということだ。
それが何なのか判らないけど。
まあいいか。
私としてはこれまで通りエリザベスと仲良く出来たらそれでいい。
「判った。
元通りよろしく」
「うん……と言いたいけど、いいの?」
エリザベスが遠慮がちに聞いてくる。
「何が?」
「だってマリアンヌはミルガスト伯爵家の育預なんでしょう?
高位貴族ともお付き合いがあるって聞いているし」
「私の正式な身分は男爵子女だよ?
あ、そうだ。
今度のお茶会にエリザベスも来ない?
紹介したいの」
思いついて誘ってみた。
だってこれ、エリザベスにとってはチャンスなんじゃないかな。
モルズ様たちは身分こそ上だけど、エリザベスは商人だ。
子供の頃から商売上のことで高位貴族と知己がある。
だから礼儀も大丈夫だろうし、商売の伝手というだけでもお茶会の参加は願ってもない機会なのでは。
「……! いいの?」
エリザベスの目がギラッと光った。
やっぱり(笑)。
「うん。
私の親友、いや恩人でカリーネン家の令嬢だと言えば断られないと思う。
もちろん、絶対じゃないけど」
「是非!
お願いするわ!」
ある意味、エリザベスもチョロいな。




